はるの魂 丸目はるのSF論評


鋼鉄都市

THE CAVES OF STEEL

アイザック・アシモフ
1953


 はるか未来。地球上の人口は、限界の80億人に達していた。人々は、それぞれ平均して1千万人を擁する鋼鉄とコンクリートの洞窟都市シティで厳格な階層社会をつくり生活していた。1000年ほど前に地球の植民地であった惑星国家群は、もはや地球からの移民を受け入れることはなく、50の独立した惑星国家として地球人とは別の道を歩み、地球人は彼らを宇宙人と呼んだ。宇宙人は、地球人に圧力をかけ、ロボットとの共生を迫る。一方、地球人は、広場恐怖症ともいえる状況で、現状が未来永劫に続くと信じて生きている。
 そんななか、地球における治外法権エリアである宇宙市で殺人事件が発生。地球人の刑事イライジャ・ベイリは、人間そっくりに作られたR(ロボット)・ダニール・オリヴォーとともに、事件の解決を求められる。ロボットへの反感と嫌悪、恐怖を秘めながらも、正義感あふれるベイリは、試行錯誤しながら、犯人像を追い求める。
 ダニール・オリヴォーがはじめて歴史に登場する作品である。
 本書は世に出た1953年から1980年代はじめまでと、80年代中盤以降で大きくその位置づけを変えている。
 そもそも、本書はアシモフのロボットものの傑作であり、初の長編ロボットものであり、ロボット三原則を前提に、SFとミステリーが両立することを示した歴史的な作品である。
 いま読んでも、そのいくつかの設定に無理があるとしても、ロボット三原則を受け入れるならば、とてもおもしろい小説である。
 しかし、現在において、本作品はまったく別な意味を持つ。
 ダニール・オリヴォーが誕生し、イライジャ・ベイリとはじめて接した、大きなストーリーの原点として位置づけられてしまった。
 それは、80年代にアシモフが、読者と出版社の長年に渡る絶え間ない要求に対し、ついに答えを出したことによって起こった。ファウンデーション・シリーズの続編である。
 本書と同じ1953年に第三作が出版されたファウンデーション・シリーズは、ロボットの出てこない遠い未来の物語であり、ハリ・セルダンが生み出した「心理歴史学」は、たとえば私の大学の同級生のひとりは、大学の進路を決める動機に「心理歴史学」をあげたぐらいに大きな影響を与えた。なつかしの80年代初頭よ! ファウンデーション・シリーズの続編は長く書かれることがなく、読者のほとんど、私も含めて、その続編はあきらめていた。ところが、80年代に入り、アシモフの頭の中のスイッチが切り替わった。ファウンデーション・シリーズはふたたび歩き始める。そして、アシモフの2大シリーズであるロボットものとの融合が起こったのだ。
 その中心に、ダニール・オリヴォーがいた。そして、ダニール・オリヴォーの友人であり、人間のありようを教えたイライジャ・ベイリの影が…。
 80年代から1992年にアシモフが没すまでに書いた小説群と、グレゴリイ・ベンフォード、グレッグ・ベア、デイヴィッド・ブリンという現代アメリカを代表するSF作家が書き上げたもうひとつのファウンデーション・シリーズにより、本書の「はじめの1冊」としての重要性は高まった。
 そして、これら多くの小説群を読んだ上で、あらためて、福島正実訳の「鋼鉄都市」を読むと、なんと未来を予感させることか。未来が過去を作り、過去が未来を作るのである。

 さて、本書の話に戻るが、ベイリが生まれてはじめてシティ外の自然の空気を吸い、シティに戻ったとき、彼は、大きな発見をする。「シティには臭気がある!」
 地球最大の2千万人が生む臭気に、彼は、外の世界を発見する。宇宙には、50の惑星国家以外にもたくさんの星があるのだ。そして、人間は、外に行くことができるのだ。
 彼の心の中に生まれた、この動機こそ、アシモフが書きたかったことに違いない。


(2004.3.11)



TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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