はるの魂 丸目はるのSF論評


ロカノンの世界

ROCANNON'S WORLD

アーシュラ・K・ル・グィン
1966


 ル・グィンが手にしたはじめての長編であり、ハイニッシュ・ユニバース年代記のひとつである。この世界では、アンシブルという即時通信システムがあり、超光速を使った機械船の移動は可能である。しかし、人の移動は光速の壁を超えることができない。
 人が動くには、長い時を置き去りにするしかない。
 ロカノンは、フォーマルハウト第二惑星から来たひとりの未開異星人に興味を引かれ、人類学者として調査に入る。調査隊は不明宇宙艦隊により全滅し、ロカノンは、数人の惑星人たちとともに、敵艦隊の惑星基地にあるであろうアンシブルを使って危機を連盟最高幹部に伝えるため、未踏の地への旅に出る。
 旅は、ロカノンを変え、出会う未開の知られざる知的生命体達に影響を与えていく。
 ロカノンに与えられた苦悩、運命は、「受難」である。「受難」はロカノン自らの救済であると同時に、周囲の世界の精神的・物的な救済である。
 ル・グィンが描く異世界と異世界の出会いは、静的なものではない。物語は静かに流れるが、旅は静かではあり得ない。
 旅は出会いであり獲得であると同時に、失い続けるものでもある。そのせつなさを、ル・グィンは書き続ける。
 私たちは失い続ける。前に進むために。
「ハイペリオン」シリーズや「指輪物語」と同じく、前に進むため、時に立ち止まりたいときに読むとよい本である。

 現在絶版の本書、サンリオSF文庫の表紙は竹宮恵子、その後早川に移り、萩尾望都が表紙を書いている。このふたりが同じ本の表紙を書いていることも興味深い。手元にあるのは早川版。
と書いたところで、本屋に行ったら、早川版が復刊されていた。


(2004.3.18)



TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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