はるの魂 丸目はるのSF論評


ホログラム街の女

DYDEETOWN WORLD

F・ポール・ウィルスン
1989


 SFとハードボイルドは意外と相性がいい。くたびれた開拓星のバー、荒廃した未来の下町、やさぐれた男、町になじまない女…。どんな設定でもいい。心根は優しいのに、斜に構えてしまった男や女、あるいは出口をなくしてしまった男や女が生きる場所を見つけさえすれば。
 市民権の与えられないクローン。昔の俳優や女優を快楽の道具、商売の道具として再生する街。
 存在の否定された落とし子達。厳格な出産制限で違法出産された子どもは、生まれた直後から親と離れ、市民権を持たずに闇の中で生きるしかない。市民権はなくても社会的に認知されたクローンよりも下の存在。
 そして、市民、真民。太陽系外世界に行くことができる唯一の存在。管理された社会が嫌なもの達は自由世界に向かって行く。残されたもの達は、管理された偽りの社会を生きる。
 ここに私立探偵がいる。妻が子どもを連れて外の星に行ってしまった。男を見捨てて。男は、頭に穴をあけ、バーチャルなセックスにおぼれる日々。もちろん、金はない。仕事もない。
 久々の依頼人はクローンの女。以前、しぶしぶながらクローンの女の依頼を引き受けたのが評判になっているらしい。クローンは嫌いだと、首を振る私立探偵。
 しかし、最後は仕事を引き受けてしまう。おそらく金のため。おそらく好奇心。おそらく女を追い払うのが面倒になったから。おそらく男に騙されているのにまったく気づかない女に少しだけ同情を覚え、騙した男に少しだけ怒りを覚えたから。たいした理由ではない。
 管理されたデータネット。ニュースも管理され、クレジットカードですべての動きは把握される。金貨は足の付かない裏の金。身分をごまかすならばホログラムスーツを身にまとえばよい。全身が別人のように見える。ニュースネットをハッキングして真実をかいまみせる者。データベースに侵入して、金をかせぐ者。クスリを売る者。クスリを買うもの。
 小さなガジェットでつづられる、あるかもしれない未来。いるかもしれない男。
 小説の「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」ではなく、映画の「ブレードランナー」の世界。映画「JM」の世界。つまりは軽い読み物。
 人を見下すシステムに対する怒りのお話。ひとりひとりの人間の存在など気にしない権力やありように対する怒りのお話。どこにでもある話。だから、ついつい読んでしまう。
 ただ、ねたばれになりそうな話は書けない。

(2004.4.8)


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TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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