はるの魂 丸目はるのSF論評
中継ステーション
WAY STATION
クリフォード・D・シマック
1963
1840年4月22日生まれ。124歳。現在、1964年アメリカ・ウィスコンシン州。鳥がさえずり、花が咲きほころび、土のかおり、季節のかおり豊かなさびれた田舎町に、見た目は30歳代のイノック・ウォーレスが暮らしていた。地球は、核戦争の恐怖が高まり、今にも人類文明は崩壊の危機にある。1日1時間、ウォーレスは家を出て散歩をし、郵便夫から郵便や新聞、雑誌、時には日用品を受け取る。彼の存在に気づき、見張るCIAのエージェント。しかし、彼が何をしているのか、なぜ若いままなのかは分からない。
イノック・ウォーレスは、中継ステーションの管理人。銀河宇宙文明が星から星に旅をするための中継ステーション。さまざまな異星人が訪れ、目的地に向かって去っていく。地球はまだ銀河宇宙の一員としては受け入れられず、ただ、そこが中継点として必要だったからできただけの通過駅に過ぎない。地球で途中下車することはできず、管理人であるイノック・ウォーレスだけと接しては去っていく。彼は、さびれた宿場町のひとつだけの宿屋兼バーの雇われマスターといったところである。さびれた宿場町=地球のことを気にしながらも、旅人=異星人の話や世界を楽しんでいる。地球人に対して話すことができないといううしろめたさを持ちながらも。
静かに、静かに話は進む。まだプラスチッキィでも、テレビ的でもない、開拓が終わって静かになったアメリカの里山の、自然豊かで静かな閉鎖した町の静かなちょっと変わった男の話である。しかし、そこには、滅びの予感がある。核戦争の恐怖、失われていくものへの恐れ。1963年という時代が、シマックの美しい世界に影を落とす。
そして、シマックは未来への希望を込めて解決策を提示する。それは、現実的な解決策ではない。しかし、もっとも現実的な解決策でもある。物語の力。伝説が、ファンタジーが、文学が伝え続けてきた希望と共感である。
高校生の頃、はじめて本書を読んだ。日本のさびれた山奥の閉塞した田舎町で、早くここを出たいと願いながらも、同じような場所に居続ける男の静謐な物語に感動した。20年以上経って本書を再読し、やはり静かなシマックの世界に落ち着いた気持ちを持つことができた。
鳥の声が消え、緑が失われ、核戦争の恐怖という明確な形がないままに、恐怖の未来しか描けない現在に、せつなさと懐かしさと、持続する恐怖の源を教えてくれる1冊である。
SFの形をしたおとぎ話なのかも知れない。
ヒューゴー賞受賞
(2004.4.4)
TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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