はるの魂 丸目はるのSF論評


星を継ぐもの

INHERIT THE STARS

ジェイムズ・P・ホーガン
1977


 専門化した科学知識を組み合わせ、統合して新しい発見・知見を得るというのは、私の夢であった。高校生の頃、あこがれた職業は、そういう立場の者になることだった。
「宇宙船ビーグル号」の総合科学、「ファウンデーション」の心理歴史学、そして、本書に出てくるヴィクター・ハント博士…、そういう仕事がきっとあると思っていた。
 大人になって気がついたのだが、そんな仕事は、どこにでも転がっていて、どんなことでもあてはまることだった。門外のことにアンテナを張り巡らせ、自説や常識にこだわらず、組み合わせ、直感を大切にする。それだけのことだ。料理だって、データ収集・分析だって、商売だって同じことだった。
 ただ、そういう能力の開発が日本の教育課程の中で評価されにくいことだけは、高校生の私にも分かっていた。  だから、本書は夢であり、希望の話だった。
 さまざまな断片を組み合わせ、新しい情報を生み、それが、新たな動きと、新たな自分の役割を作っていく。拡大循環的で双方向の動きに心を大きく動かした。
 世間知らずな若者の無鉄砲なあこがれだったが、今もそれは変わっていない。
 私は科学者ではない。しかし、本書は、私が今の私を選ぶための動機を与えた一冊である。

「星を継ぐもの」は、ジェイムズ・P・ホーガンの長編第一作であり、「ガニメデの優しい巨人」「巨人たちの星」の三部作第一作である。
 2027年、月の土木調査中に、赤い宇宙服を着た死体が発見された。それは、人間の男だったが、調べてみると5万年前に死んでいた。この男はどこから来たのか? 人類との関わりは? どこで進化したのか? 地球上だとすれば、文明の痕跡はどこへ行ったのか?
 様々な研究が進めば進むほど、相反する証拠ばかりが出てくる。
 地球の生態系とは明らかに異なる進化をした魚、やがて発見される異星人の死体。
 本当の答えは?
 最後は、あっという、そしてなるほどという答えを用意している。
 答えを知って読むと、興ざめてしまうので、ここではねたばれを避けておくが、初出当時、ミステリ誌でも評価された作品である。70年代を代表するSFであり、上質のミステリーとして、ホーガンの名を世界に知らしめた作品である。
 ホーガンが書く初期の作品には、科学や技術の発展に対しての懐疑はない。むしろ、科学や技術の発展を突き詰めていくうちに、今ある問題は必ず解決できるはずだという楽観的な立場をとっている。それは、人間に対する楽観主義でもある。楽観しすぎるところもあるが、本作品では、人間の精神の動きはあまり重要な要素を持たず、ただただ謎ときだけなので、読むのに苦痛はない。

 なぜか知らないが、最近になってあちこちの大型書店で平積みされ、手書きのPOPで紹介されている。初版が1980年、私が買ったとき1982年で12判を数えていた。それから20年余。すでに、書かれている科学的知識のいくつかはその後発見された事実により覆されている。また、インターネットやコンピュータ社会についても、本書はそこそこ適切な未来を描いているが、やはり古さを感じてしまう。なのに、SF以外の人たちに多く読み継がれているのは不思議なことだ。  上質なミステリーなのだろう。
 願わくば、これをきっかけに、最近のSFにも手を出してみて欲しい。
 グレッグ・ベアあたり、読みやすいかもしれない。

(2004.4.13)



TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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