はるの魂 丸目はるのSF論評
ガニメデの優しい巨人
THE GENTLE GIANTS OF GANYMEDE
ジェイムズ・P・ホーガン
1978
「星を継ぐもの」の続編である。「星を継ぐもの」はSFであり、ミステリーなので、続編には前編の種明かしがつまっている。「星を継ぐもの」を読んでいない人は、本評を読まないことをおすすめしておく。
前作に続き、高校の頃に読んだのだが、前作と違い、あまり記憶と印象がない。
さて、太陽系第五惑星ミネルヴァでは、後に人類がガニメアンと名付ける知性生命体が進化し、現在の人類よりはるかに進んだ科学文明を築いていた。2500万年前、ミネルヴァの長期的な環境変化はガニメアンの生命をおびやかすものとなり、ガニメアンは第三惑星地球の動物を収拾して、その機能を取り込む実験を開始する。しかし、実験は失敗したらしく、ガニメアンは姿を消し、かわりにミネルヴァの環境に適応した地球生まれの動物がミネルヴァの生態系に位置する。そして、そこで人類は進化し、戦い、5万年前に、ついに、惑星そのものを破壊するような戦争を迎えてしまう。ミネルヴァはアステロイドベルトと化し、ミネルヴァの月は、太陽に引かれ、やがて衛星を持たなかった第三惑星の軌道に落ち着く。そして、ミネルヴァの月に生き残ったミネルヴァ生まれの人間は、地球に降り立ち、進化しつつあった人類ネアンダール人を滅ぼし、新たな歴史を生み出した。
そして、2027年、月で、宇宙服を着た死体を発見し、ルナリアンと命名。5万年前の死体をめぐって、謎を解き明かすのが前作「星を継ぐもの」であった。
「星を継ぐもの」では、木星の衛星ガニメデの氷の中から、巨大な宇宙船を発見する。2500万年前のもので、そこには、当時の地球の動物たちと、巨大な異星人ガニメアンの死体があった。ガニメアンの死体から、ガニメアンはミネルヴァで進化した生命であり、ガニメアンが地球の動物をミネルヴァに運んでいたことが推理さた。
主人公のヴィクター・ハント博士が、ガニメデで調査研究を続けている、まさにそのとき、実験的に起動させた宇宙船の装置が発した信号により、巨大な宇宙船がガニメデに接近。それは、生きたガニメアンであった。
当初、ミネルヴァを捨て、遠い恒星に旅立ったガニメアンかと思われたが、実は彼らは、2500万年前、ミネルヴァの危機を回避するために別の恒星系で実験をしていた科学者たちであった。実験中のトラブルで、恒星系を緊急離脱することとなったが、修理中の宇宙船での緊急離脱だったため、ミネルヴァに戻るまで船内時間で20年、そして、太陽系の実時間では2500万年の時を経ていたのだ。
奇しくも、まさに人類が、ルナリアンとガニメアンを発見し、太陽系第五惑星の謎を解き、人類の不思議な進化について驚きをみせた、その時に、2500万年の時空を経て、生きたガニメアンに会うのである。
うーむ。ものすごいご都合主義である。ここまですごいと、かえって文句が言えなくなる。この「偶然」を導入することで、新たな謎解きが始まる。なぜならば、帰ってきたガニメアン達は、地球の動物をミネルヴァに運んだ事実を知らなかった。それは、彼らが行ったあとの出来事だったのだ。
ガニメアン達と人類は、お互いに協力しながら、欠けた輪をつなごうとする。ミネルヴァはどうなったのか。ガニメアン達はどこにいったのか。人類はどうやってミネルヴァで進化したのか。なぜ、ガニメアンは、地球の動物をミネルヴァに運んだのか? そして、ミネルヴァ産の動物と、地球産の動物に見られるひとつの酵素の違いの意味は?
そうして、新たな謎解きがはじまった。
本書では、ガニメアンが自らに遺伝子操作をしていることが明らかにされ、そのことに地球人達は驚きを隠さない。生命の改変までいとわない態度に驚嘆する。
…地球人は遺伝子組み換えにはおよび腰である。(本文306ページ:創元推理文庫SF)
本書が書かれた当時、すでに遺伝子組み換えやクローンの可能性は現実のものとして受け止められ、その倫理性について議論がはじまっていた。まだ、実験段階のものであったが、生命の本質に手を付けることに、文化的、宗教的、社会的忌避と、科学的な懐疑が上げられていたのである。
残念ながら、その後、遺伝子組み換えもクローンも実用化され、遺伝子組み換えにいたっては、商業商品作物として、大規模に栽培されている。
科学技術万歳主義のホーガンであっても、地球人の未来の態度について「および腰」と書いたほどであったのだから、もっと議論をすべきであった。
もちろん、今でも遅くない。
おっと、失礼。話が横道にそれてしまった。
本書のは、ファーストコンタクト小説でもある。前作では、生きた異星人に会うことはなかったが、本作では、生きたガニメアンと人類との接触が話の中心である。ガニメデでの科学者・軍人とのざっくらばらんな出会いと交流。地球から届く、形式張った指令。地球の熱狂的な興奮、地球でのセレモニー、交歓。
本当に、ホーガンが書く人間には毒がない。せいぜい、国連を舞台にした国同士の綱引きが少しだけ語られるだけである。陰謀も、暗殺も、異星人に対する恐怖も、忌避も、パニックも書かれない。ほのぼのとしたファーストコンタクトである。
さりげなく、ガニメアン側に人工知能が出てきたりもする。それにより、言葉の壁や情報の壁がいとも簡単に取り除かれる。ホーガンらしい。このあたりは、現実離れしているが、もともと、最初の設定が設定だけに、気にしないことだ。それに、現実のファーストコンタクトがどうなるか、誰も分からないのだから。それでも、小説として成り立っているのが、ホーガンのホーガンたるゆえんである。
さて、ガニメアンの科学者とハント博士ら地球人の科学者はそれぞれに、真の秘密に気がついてしまう。地球人もまた、遺伝子操作を受けていたのだ。
ガニメアンは、地球人=ルナリアンが経てきた苦難の歴史を思い、彼らが地球に居続けることで起こる衝突を避けるため、地球を離れ、ルナリアンが言い伝えてきた「巨人の星」に向かって再び旅をはじめた。
「巨人の星」である。もちろん、あの「巨人の星」ではない。星君。巨人軍は永遠に不滅なのだ。ではなく、実は「巨人たちの星」であった。ということで、続編であり、三部作の最後を飾るのは「巨人たちの星」である。
ということで、さらなるご都合を用意し、もうひとひねりの謎を加え、第三部へ続くのだ。
(2004.4.13)
TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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