はるの魂 丸目はるのSF論評
夢の蛇
DREAMSNAKE
ヴォンダ・N・マッキンタイア
1978
旅と成長の物語である。時は未来。場所は地球。核戦争が起こってずっと後の世。異星人がドーム都市「中央」に住む地球人と接触している時代。生命科学をほそぼそと守り、研究し、治療師を養成する田園地帯。治療師は3種の蛇を連れる。蛇は生きた化学工場として解毒、治療、そして、苦しむ人に夢を見させる。「スネーク」という象徴的な名を与えられた若き治療師は、砂漠地帯まで人々の治療に出向き、夢の蛇を失い、すべてを失い、希望を取り戻し、未来を希求し、夢の蛇とその秘密を取り戻すため、時々は苦しみの中に自分を見失いそうになりながらも、その時々に彼女を求め、彼女に信を寄せる人たちから希望を受け取り、前に進む。
それは、旅の物語である。砂漠地帯、採掘地帯、山腹地帯、田園地帯、都市「中央」、破壊されたドーム…。夏から冬へ。見慣れぬ植物、違う文化の人々との出会い。傷ついた者たち、傷つけた者たち。
それは、成長の物語である。人を救うことができるという自信。人を救うことができなくなったという絶望。人に信頼されるという苦しみ。彼女の一歩一歩が、彼女自身の軌跡であり、成長である。
設定はありふれたものだ。小道具だってありふれている。それほど大きな事件が起こるわけでもない。世界の説明さえ、ない。ご都合主義かも知れない。
科学は、人が使うものだ。知識は伝えなければ、生きることはない。
このふたつだけを柱に、静かに治療師の旅が続く。
短編でも十分な話だが、長編になってこそ、その長い旅に人々は感動する。
ところで、本書を読んでいるうちに、キャラクターや風景が萩尾望都の漫画になってしまった。萩尾望都が書いたと言っても通じるような話なのである。
萩尾望都の書く「スター・レッド」や「マージナル」などが好きな人には、特におすすめする。
ヒューゴー賞/ネビュラ賞受賞
(2004.6.28)
TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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