はるの魂 丸目はるのSF論評


宇宙兵ブルース

BILL, THE GALACTIC HERO

ハリイ・ハリスン
1965


 戦争SFの代表作に本書を上げるのを忘れていた。「宇宙の戦士」「エンダーのゲーム」などにならぶ戦争SFの代表作である。てか。本書を取り上げてよく言われるのが「宇宙の戦士」(ハインライン)と「銀河帝国の興亡(ファウンデーション)」(アシモフ)のパロディ作品ということ。
 しかし、そんなことは忘れて欲しい。すなおに、独立した1作品として読んでいただきたい。
 古くない、のである。
 どこにも暦を思わせるところはない。今、読んでも、昨年書いたものと言われても、違和感はない。もちろん、翻訳語やもしかすると原文の単語や言い回しが古くなっている節はあるかもしれないが、そこのところをちょいといじれば、新鮮な小説のできあがりである。
 出てくるのは、田舎惑星と新兵訓練施設と宇宙戦闘船と銀河の中心・帝王のいる惑星に、刑務所と最前線の惑星。
 主人公は、ビル。新兵にして銀河の英雄、脱走兵、革命スパイ、市清掃局研究者、囚人、新兵徴募係。
 身体が丈夫であまりものごとにこだわらない主人公ビルの活躍ぶりを、ユーモアあふれる語り口で披露しながら、SFの舞台裏を次々に明かしてくれる。
 なーんだ、そーゆーことか、ふーん、ってなもんだ。
 その中に、ハリスン独特の、いやSFならではの文明批評と警告が込められている。
 戦争のおろかしさ、環境問題、ごみ問題…。
 1500億人を超える帝国惑星の最下層に市清掃局がある。人糞は、肥料にして食料生産惑星に送り返し、喜ばれている。しかし、プラスチックなどのごみたちはゆくえもなく溜まるばかり。物質瞬送機でもよりの恒星に送っていたら、新星化しておおごとに。海に投げ込んだごみのせいで水位は上がりおおごとに。
 そこでビルは考えた。ごみになった皿を箱に入れ、免税の贈呈小包にして銀河系の各植民に郵便で送ってしまえばいい。作業はロボットにやらせればいい。
「すかさずビルはとどめを刺した。
『ロボットの包装費はロハ、宛名もロハ、材料もロハ。それにもう一つ、ここは官庁だから切手もロハとくるんですぜ』」
 さすがである。似たようなことは、すでに現実になりつつあるが、ここまで徹底したごみ対策はない。ハリスンの慧眼には、恐れ入るのである。
 戦争に対しても、ハリスンの筆は冴えわたる。
「『と思うのが大まちがい。戦争でいちばん安全な場所は、軍隊の中なんだぜ。前線の野郎どもは頭をぶちぬかれる。故国の地方人どもは頭をふっとばされる。その真中にいるやつは、まかりまちがってもケガはねえ。前線の一人に補給するためには、三十人から五十人、いやおそらく七十人のやつが、真中に必要なんだ。いったん文書整理係になる手口をおぼえちまえば、気楽なもんよ。文書整理係が射たれたなんて話が、どこの世界にある? おれは優秀な文書整理係なんだ。しかしそいつあ戦争のあいだだけだぜ。平和のときはちがう。やつらがひょんな間違いをして、しばらく平和になったときには、戦闘部隊に入るにかぎる。エサはいい、休暇は長い、仕事もたいしてねえ。それに、ぐっと旅行もできらあ」
「で、戦争がはじまったらどうする?」
「おれは病院へもぐりこむ七百三十五通りの方法をこころえてるよ」』(ハヤカワ文庫版第3刷228ページ)
 ちょっと長い引用になったが、どうだろう。まいっちゃうね。
 ところが、これを言った奴は、ちょっとした書き間違いで、最前線の惑星に送られることになるのだが、それもまた人間がよくやらかすことである。
 とにかくおもしろくて、考えさせられる。パロディの原著のことなんか気にしなくていいから、ぜひ読んで欲しい。なあに数時間あれば読めるような内容だ。絶版なのは残念。
 手元の文庫版第三刷(1989年)の横山えいじ氏ののほんとしたイラストもまたよし。

 ちなみに、本書は、出版から2年後1967年にハヤカワの銀背で出され、1977年に文庫化された。文庫版の最初は藤子不二雄氏のおどろおどろしたイラスト表紙だったようだ。


(2004.7.17)



TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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