はるの魂 丸目はるのSF論評


フリーウェア

FREEWARE

ルーディ・ラッカー
1997


「ソフトウェア」「ウェットウェア」に続く、ラッカーの「ウェア」シリーズ第三弾。ついに時代は、2053年までやってきて、3シリーズ共通の登場人物スタアン(ステイ=ハイ)ムーニーは、なんと上院議員様。妻のウェンディのクローン肉は、クローン牛、豚、鶏とならぶ、人気食材の時代。
 カビイこと、特殊な樹脂と地衣類のようなものでできたハッピー外套は、モールディと呼ばれて、地球上でも市民権法で市民としての権利が保障されている時代。ムーニー上院議員の働きかけは絶大だ。
 シリコン製のCPUがおしゃかになった後には、カビイを利用して、モールディのような知性のないDIMがなりかわり、パソコン兼電話兼インターネットはユーヴィとよばれる、生体針のないハッピー外套となって、ほとんどすべての人が利用するインフラとなっている。
 つまり、肉人間とモールディが相互に憎みあいながら生存し、地球では肉人間(われわれだ!)、月ではモールディが強い状態でなんとか存在していた。しかも、そのインフラは、モールディと同じ素材。
 かくして、肉人間とモールディのぬたぬたねとねとりんりん物語が幕を開け、便利さと不愉快さの間で、人々は文句を言ったり、麻薬におぼれたり、遊んだり、働いたり、倒錯したりしながら生きているのであった。
 ところが、ちょっとした変態天才のアイディアで、宇宙の生命の本質を見つけてしまったところで、エイリアン騒動まで勃発。もう、地球圏は人間とモールディでいっぱいだってばさ。どうする、どうする。
 スタアン・ムーニー、今回も、元上院議員なのに…らりらりでなみなみなのだった。
 本書では、前作よりもラッカーの本職である数学的なアイディアとそのSF的援用が行われている。そういうのもおもしろい。

 それにしても、「ウェア」の世界は、わずか50年で、ものすごく変になっている。
 もし、今、ラッカーの50年後の未来にタイムトリップしたら、気が狂いそう。
 50年前、1955年頃に、今にタイムトリップしたら、やっぱり、ものすごく変で、気が狂いそうになるだろうか。パソコン、インターネット、携帯電話、フリース、ペットボトル、冷凍食品、無菌パック、遺伝子組み換え植物、クローン動物、生命医療、HIV、BSE、抗生物質耐性菌、プラスチックと電子機器に取り囲まれた社会と生活…。どうなんだろう。

 さて、本題。フリーウェアって何だ?
 コンピュータを動かしているのは、プログラムなどのソフトウェア。地球生命圏の生物を動かしているのもソフトウェア?
 コンピュータは、シリコンと金属でできたものだからハードウェア。地球生命圏の生命は、水と有機化合物などでできているべちょべちょぬたぬただから、ウェットウェア。
 どこかの天才たちがつくるソフトウェアがフリーウェア。プログラムやデータやコンテンツもフリーウェア。でも、本書に出てくるフリーウェアはそればかりではないようで、フリーウェアな存在ってなんだ?
 答えを探して、本書を開いてみるとおもしろいことになるのは請け合い。

 ところで、すでに、「ウェットウェア」は本書出版(ハヤカワ文庫SF2002年3月刊)の時点で絶版だそうだ。続編の「リアルウェア」もあるのに…。
 みんなで読んで、頭をりんりんにして、早川書房に気持ちを入れ替えてもらおう。
 おっと、真の変態の性生活なんてのも出てくるから、お子さまは要注意。頭に花を咲かせないように…。


(2004.08.13)



TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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