はるの魂 丸目はるのSF論評


いまひとたびの生

TO LIVE AGEIN

ロバート・シルヴァーバーグ
1969


 先日帰省したときに、実家の本棚に残してあったSFのうち1冊を手に取り、空港までのバスと飛行機と帰りのバスの車内で再読したのが本書である。つい先日、「時間線を遡って」を読んだばかりで、ちょっとシルヴァーバーグ熱がともっていたのだが、なんと、本書と「時間線を遡って」は発表年が同じであった。このころのシルヴァーバーグは多作であったのだ。

 さて、本書は「ドノヴァンの脳髄」(カート・シオドマク 1943)以来、「ハイペリオン」の現在にいたるまでSF、ホラー系の変わらぬテーマである、精神乗っ取りもの。今では、ヴァーチャルリアリティなどを軸にした作品が多くなっているが、本作は、ホストとなる金持ちが、死んでしまった金持ちの人格を自分の脳にデータとしてパーソナ移植し、その智恵や経験、感性を自分の人生に生かす技術である。人格を保存しておきたい金持ちは、最低でも半年に1度、自分の記録を保存する。死んだら最新のデータだけが使われるのである。
 90億人の人口のうち、記録しているのは8千万人。1%未満である。
 中には、2人、3人のパーソナを脳に移植しているつわものもいる。
 ところがどっこい、パーソナの中には、強力な個性、人格を持つ者がいて、ホストを乗っ取ろうとするものもいる。もちろん、ホストの乗っ取りは違法であり、検察官が取り締まり、パーソナを消去してしまう。パーソナによるホストの乗っ取りをディバッグと呼ぶ…。
 今、ひとりの経済界の大物が死んだ。成り上がりの経済人が彼のパーソナを手に入れようとやっきになる。大物の親族は彼のパーソナを成り上がりものの商売敵にだけは手渡すまいとこれまたやっきになる。策謀の中に振り回されつつも、欲望に燃える男たち、女たち。自分の役に立つパーソナを頭に入れたところで、人間の行動はそんなに変わるものではないのだった。

 本書もまた、「時間線を遡って」同様に、現代において読んでも古さを感じさせない作品である。本書は、現代的なテーマである人格と記憶の永久保存と再生について書いているだけに、一歩間違うととたんに古さを感じるはずだが、うまくまとめて、現代的なテーマを際だたせている。
 もちろん、パーソナの保存方法やホストへの移植など、脳の正体と、記憶、感性、経験のともなう智恵については、今を持ってよくわかっていないことが多すぎるので、本書のハードな部分が荒唐無稽であっても、今のところそれほど気にはならないのだが、やがては気になることだろう。

 それにしても、本書は、最先端の技術が結局は人口の1%に満たないものたちのための道具であり、それ以外の多くの人々にとっては、手に届くことのないものであることを見事に書き示している。エンターテイメントと社会批評、あるいは、挿入した技術による社会と人の光と影のバランスのとりかたが優れた作者だったのだ、若い頃のシルヴァーバーグは。

 本書は、すでに入手困難な作品となっている。しかし、現代的なテーマだからこそ、今、読んで欲しい作品でもある。

(2004.9.16)



TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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