はるの魂 丸目はるのSF論評
スラン
SLAN
A・E・ヴァン・ヴォークト
1940
海外ではどうか知らないが、日本において超能力SFの代表作・古典を問われれば、今もって本書「スラン」が挙げられるに違いない。
「スランだ!殺せ!」
なんといっても、竹宮恵子の漫画「地球へ」をはじめ、萩尾望都の初期作品群など多くの漫画・アニメに影響を与えた作品であることは間違いない。
超能力者、異能者は殺さなければならない。迫害しなければならない。そうでなければ、自分たちがやられるのだから。迫害され、殺されるものは、なぜ自分たちが狩られなければならないのか、理解できない。人間と違う能力を持っているのは自然なことではないか。人間となぜ共存できないのか。迫害されるものの悲哀。狩られるものの正義。
こういうところが心をくすぐるのだ。
もちろん、萩尾望都の初期作品群をはじめ「ポーの一族」、竹宮恵子の「オルフェの遺言」などのシリーズ「地球へ」など、迫害されるものたちの世界を漫画化した彼女らの作品群に中学生のころしっかりとはまったひとりとして、本書は懐かしく安心して読める作品である。
スランは、読心能力や天才的な知覚力を持った新人類である。西暦2070年、サミュエル・ラン博士が発見した新人類たちは、その後確実に数を増やす。しかし、現人類は異常出産を続け、人間は狂気に陥り、戦争が起き、スランはすべての災厄の元凶として狩られる。500年続いた狂気のスラン狩りのあと、スランたちは社会の表舞台から姿を消し、散発的に狩られるにとどまっていた。それから1000年ののち。すべては伝説となりながらも、スランを狩り、人間を管理する専制的な社会ができていた。ジョミーことジョン・トマス・クロスは、そんな社会に生まれたスランの子ども。天才科学者の父を殺され、今また、母を殺された。彼は生き残り、様々な現実に出会う。読心能力を持つ純スランだけでなく、スランを特徴づける頭の触毛を持たず読心能力もない、そして人間社会には知られていない無触毛スランの存在。無触毛スランの純スランへの憎しみ。人間のスランへの憎しみ。無触毛スランの人間への憎しみ。そして、探しても探しても見つからないほかの純スラン。
ジョミーは成長しながら、なんとかこの狂気の連鎖を止めたいと願う。父が残した科学技術を武器に、彼はひとり、全世界を相手に無謀な戦いを終わらせる戦いに挑む。
ね。どこかで聞いたことのあるような筋書きでしょう。
すべては「スラン」から始まったのだ。「スラン」があり、萩尾望都や竹宮恵子の70年代作品があって、日本のSFアニメ界は花開いたのだ。言い過ぎですか?
すくなくとも、迫害者テーマ、超能力者テーマの古典として、「スラン」ははずせない1冊である。
ちなみに本書はA・E・ヴァン・ヴォークト(ハヤカワSF文庫ではA・E・ヴァン・ヴォクトとなっている)の処女長編だ。このあと、彼は「武器製造業者」「宇宙船ヴィーグル号」「非Aの世界」など、名作を次々と発表する。
余談続きだが、本書が発表されたのは1940年。本書では、おおよそ西暦3500年以上先の未来と西暦2070年の過去の歴史を扱っている。その戦乱の果ての遠い未来の人口は約40億人。なかなかいいところをついていると感心した。
(2004.09.30)
追記 2012年10月、読者より
竹宮恵子氏がマンガ少年に「地球へ…」を連載していた頃、何度もインタビューでスランとの類似性を指摘されていました。1979年くらいかな?
竹宮恵子氏は、
「確かに似ていることは、人に言われて読んでみて驚いたが、スランはそれまで読んだことはなかった」
と、当時、雑誌にも読者にも再三答えています。
とのご指摘をいただきました。ありがとうございます。
「地球へ…」との前後関係は、私の勘違いだったようです。原文はそのままにしておきますが、竹宮恵子氏と読者にお詫びして訂正いたします。
TEXT:丸目はる
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