はるの魂 丸目はるのSF論評


アトムの子ら

CHILDREN OF THE ATOM

ウィルマー・H・シラス
1953


 1981年にハヤカワSF文庫となった「アトムの子ら」は「スラン」「オッド・ジョン」などの新人類テーマものである。本書の舞台は、1973年。本書が発表されてから20年先の未来。私がいる今から30年も前の未来である。
 1958年、原子力研究所で起こった爆発事故。当初は死者が少なかったものの、2年の内にはほとんどが死ぬか危篤の状態となった。その中で生まれた子どもたちは、すぐれた頭脳を持つ天才児であった。14歳前後を迎えた彼らは、あるものは精神病患者として扱われ、あるものは自らの能力を隠しておとなしく暮らし、ペンネームを使って文筆活動、設計などの活動を続けていた。
 高度な頭脳と認識力を持ちながらも、「わかってくれる」仲間が見あたらないことによる孤独感、社会への経験不足など、不安定な成長を起こしかけていた。
 主人公の少年ティモシー(ティム)・ポールと精神病医のピーター・ウエルズの出会いが、この状況に変化をもたらす。ティムの能力と問題を察知したウエルズはティムに協力し、仲間を捜し、彼らがのびのびと精神と能力を成長させるための新たな学校を開くまでとなった。しかし…。
 子どもであるがゆえに才能を認められず、隠さなければならない、あるいは迫害される。オースン・スコット・カードの「エンダーズ・シャドウ」シリーズを思い起こす。天才児と現実社会の接点を描く作品は、いかに子どもの視点、行動を表現するかが正否を左右する。天才でありながら、子どもであること。そのいらだち、不安、あせり。そのあたりが本書の魅力である。
 高い認識力と理解力によって、精神的、感情的成長をとげることができるか?
 作者は、それを新人類=これからの人々に願っていた。
 以来半世紀、私たちは少しでもそれに近づくことができただろうか。

 ひとつだけ本書で残念なのは、放射能によって、生まれた2世が新人類になるということ。第二次世界大戦後の作品としていかがなものだろう。


(2004.09.30)




TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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