はるの魂 丸目はるのSF論評
神の目の凱歌
THE GRIPPING HAND
ラリー・ニーヴン&ジェリー・パーネル
1993
「神の目の小さな塵」の続編である。前作から9年、ニーヴンがちっとも続編に取り組まないジェリー・パーネルにじれてじれて自分で書ける部分を全部書いて、パーネルをせかせてまで書かせ、発表したという作品である。まずは、前作を読んでおもしろかった方、読んでください。本作は、前作から25年後。いよいよ封じ込めた異星人が封鎖線を突破するか、というところからはじまる。前作はファーストコンタクトものだったが、今作は、まさしくスペースオペラ。前作では悪人扱いだった大商人のアラブ人イスラム教徒ホレス・フセイン・ベリー閣下が大活躍する。なんといっても、“アラブは受容されたのだ。もちろん、すべての帝国市民にではない。だが、充分な数の市民に受容されている。しかも、その数は増えていくだろう”とのベリー閣下の科白である。時は、西暦3040年代のことだ。
この科白が、今ならば、どれほどよいことだろう。
本作では、異星人モーティと人類帝国は共存できるか? それとも、モーティと人類の将来の殲滅戦は避けられないのか? がひとつのストーリーになりながら、宇宙戦争と、戦略、権謀術、交渉などを楽しませるエンターテイメント作品である。
前作の登場人物、それから、前作のヒーロー、ヒロインの子どもたちも活躍するあたりが、まっとうな続編という趣で実によい。
それはさておき。本作の下巻巻末には、付録として前作の合作ノートがついている。それによると、前作・本作の宇宙帝国世界は、パーネルがすでに作品として出している未来史に沿ったものだという。唐突な西暦3千年代のファーストコンタクトには理由があったのだ。
前作がおもしろかった方には、この合作ノートを読むだけでも価値がある。
正直なところ、本作は、前作を読まないことにはそのおもしろさが半減するだろう。
本作を読んだからといって、前作の楽しさが減ることもない。
もちろん、どっちが名作かと言えば前作になる。本作は、前作と同じぐらいのボリュームがある超大作だが、それでも駆け足すぎるきらいがある。きっと、もっと時間があれば、じっくり書き込みたかったのだろう。彼はその後どうなった? あの人たちのその後は? なんてことを読み終わった後にどうしても考えてしまう。伏線のまま終わるのはなしにして欲しいのだが、そんなことをいまさら言ってもどうしようもない。その点がちょっと残念でした。
(2004.12.31)
TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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