はるの魂 丸目はるのSF論評


銀河帝国の崩壊

AGAINST THE FALL OF NIGHT

アーサー・C・クラーク
1953


 創元推理文庫SF部門定価200円。1964年10月初版発行、1978年4月31版。
 表紙は誰の絵だろう、緑色と赤の空飛ぶ円盤が黄色と赤の光をおびておどろおどろしい惑星の空を飛んでいる。創元のSFのロゴが、手塚治虫の手書きタイトルっぽい感じで実にいい味を出している。
 それにしても、「銀河帝国の崩壊」である。どうしてこの邦題になったのだろう。タイトルで買ってしまうよなあ。70年代の中学生は。本書に書き込まれた25年ほど前の私のメモによると、本書は私が買った文庫SFの16冊目にあたるらしい。
 消費税のないいい時代である。
 家庭にパソコンもゲーム機もビデオもほとんどなかったいい時代である。
 しかし、当時の中学生にとって200円は大きかったのだ。
 買った当時にはすでに「都市と星」がハヤカワSF文庫で出ていたようだが、おそらく田舎の本屋の都合か私の経済力によって本書を買ってしまった。
 今、あらためて「都市と星」を読み、その後に「銀河帝国の崩壊」を読んでみると、ひとりのSF作家が、時代を読みとりながらいかに作品を再構成したかがはっきりとわかる。
 今も表紙は変ったが、本書は創元から、そして、「都市と星」は早川から出続けている。
 SFを書こうと思っていたり、小説家になりたいという人は、この2冊を読み比べるとよい。アイディアのふくらましかたと、それにより小説がどう変るかが読みとれることだろう。

 作品については、「都市と星」の方を読んで欲しいが、本書では「都市と星」にあるような仮想現実やデータ化された人格などは出てこないので、より作品の哲学が凝縮されたものになっている。どんなに閉塞し、保守的で、壁に閉じこもったような社会でも、いつか必ず壁を越える者が登場するのだ。というお話し。

(2005.1.9)



TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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