はるの魂 丸目はるのSF論評


優しい侵略者

THE MONITIORS

キース・ローマー
1966


 ある日忽然と黄色い制服を着たハンサムな男たちが空から大きな輸送船で運ばれ、降りてくる。その直前には、すべてのテレビ、ラジオ、スピーカーから、政府などの行為を中止させ、管理を引き継いだとの「征服宣言」が行われる。
 彼らは、何の混乱もなく、完璧に秩序があり、個人に超越的な方法で知識を授け、能力を向上させ、生活を、労働を向上させた、「自由な」管理された社会を築こうとする。
 彼らの名は、モニター。原題である。
 ここに、ひとりの男がいる。仕事を失ったパイロットだ。そもそもフリーランスで、企業や政府に属するのはいやな、普通のアメリカ人である。
 彼は、人に何かを指図されるのが大嫌い。ただ、それだけだった。
 モニターたちが降り立ったとき、彼は、アメリカ魂を発揮し、彼らに対抗する勢力に合流しようとする。それが政府でも、民間でも構わない。
 モニターは、そんな彼の動機にとまどう。彼ばかりではない、モニターの「提案」に反発したり拒否する「狭い」考えの持ち主が多いことにとまどうばかりである。
 なんとか、彼を懐柔しようとするモニター。
 いっぽう、モニターに反旗を翻す側と接触することができた主人公だが、どうにもこうにも、信頼できるのかできないのか分からないような状態。それでも、彼なりの信義と正義感を持って立ち向かうのだが…。

 と書くと、この21世紀初頭の世界情勢を反映したシニカルな政治SFのようであるが、書かれたのは1966年で、書いたのはキース・ローマーである。どたばたSFである。
 しかも、落ちない。
 はっきり言おう。落ちてない。落としていない。どうするんだというところで、そんな終わり方はないだろう、という終わり方をしている。ページ数が決まっていて、前半で遊びすぎ、最後はばたばたで、まさしくスラップスティックなんだけれど、小説なんだから、そりゃあないだろう。ちゃんと落としてよ。ここまで読んできたのに、という気分。
 途中に、モニターたちの弱点を示した伏線が書かれているにもかかわらず、それはどこかに消えてしまった。おーい。

 しかたがないので、1966年に発表された小説で1976年に翻訳出版された本だから、あげつらうところはいくらもある。興味深いところだけ抜き出しておこう。
 女性が羽織っていた毛皮のコートは狼の皮だった。
 まだ、黒人の人権があたりまえに侵害されていた。言葉の上でも。
 耳栓式のテープ自動演奏装置、重さは2g、かけかえなしでぶっつづけ9時間演奏…これはたいしたもんだ。まだ、ウォークマンもない時代の未来予測。もちろん、2gには恐れ入るが。
 それから、レタスを翻訳するのに「きくぢしゃ」はないと思うなあ。こういう「訳しすぎ」って古いSFでは多いですね。辞書が古いからか。

 ま、そういうことで、侵略テーマのユーモアSFというくくりになると思う。

(2005.1.30)



TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
(スパム防止のため、全角表記にしています。連絡時は、半角英数にてお願いします)

作家別テーマ別執筆年別
トップページ