はるの魂 丸目はるのSF論評


ブレーン・マシーン

THE BRAIN MACHINE(THE FORTH "R")

ジョージ・O・スミス
1959


 中高生の頃、お気に入りだった1冊。
 話は簡単で、科学者の夫婦が画期的な教育機械を開発。機械にかかって一度本を読むだけで、その内容を記憶することができるのだ。夫婦は、この機械の実証を行うために、子どもをもうけ、慎重に育てる。5歳にして高等教育に匹敵する知識をもった主人公ジェームズ・ホールデンは、その誕生日に、両親がもっとも信頼する男が、両親を殺害するのを目撃した。男は、教育機械を独占しようと目論んだのだ。しかも、男はジェームズの後見人に指名されていた人物である。彼は、なんとか自らの命を救い、男の野望をうち砕き、その犯罪を明らかにするため、後見人の男から逃げ出し、自立の道を探る。
 しかし、幼い少年にとって、どんなにすぐれた知能と高い知識をもってしても、大人の世界で生きるのは一筋縄でいくものではなかった。犯罪組織の一員として働き、あるいは、隠遁した作家を装って収入を得ていくジェームズ。

 作者は、主人公ジェームズ・ホールデンの視点を軸にし、両親を殺した後見人からの逃走と復讐という正義を与えて話を進めつつ、一方で知識だけが先に立ってしまった主人公のかたよった理解や判断を残酷に書き連ね、それでも、主人公を魅力ある存在にしようと書き連ねる。
 そんな前半は、主人公のサバイバルゲームであり、なかなかに読み応えがある。
 しかし、物語の後半から終盤になると、安直な大人の論理が登場し、楽天的な未来を演出して物語を終えてしまう。「教育機械が開発された美しきよき未来」という安易さが、まさしく50年代SFらしい。

 早熟な少年が、子どもに対する大人の扱いに自尊心を傷つけられ、しかも生き抜いていかなければならないのだが、社会からあからさまな迫害を受けているわけではないので、ミュータント/超能力テーマとは一線を画す。
 近年では、オースン・スコット・カードの「エンダーズ・シャドウ」における、遺伝子操作された天才児ビーンが生き残るための物語が本書に近いかも知れない。

 ただ、本書は原題にあるとおり、「頭脳機械」=教育を向上させる機械による、「第四の革命」−THE FORTH "R"のRは、Revolution(革命、革新)のRだと考えられる−が、テーマであり、主人公の苦悩やドラマは、その機械が導入されたことによる社会の問題点や輝かしい未来を描くためのものにすぎない。その点で、本書は、「子どもの」物語ではない。50年代の空想科学小説なのだ。

 とはいえ、この冒険譚と成長記は、少年期の私にとってとても魅力的なものであった。作者の大人としての皮相な指摘を読み飛ばし、主人公の気持ちから本書を読んでいたものだ。その性の目覚めも含めて、楽しんでいた。とうに青年期を過ぎてしまった今、子どもの視点と大人の視点両方から本書を読み、人間が人間として成長するのは本当に難しいことなのだなと、思わずにいられない。
 日々、是、精進、である。


(2005.2.1)



TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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