はるの魂 丸目はるのSF論評


20億の針

NEEDLS

ハル・クレメント
1950


 第二次世界大戦が終わってわずかに5年後発表された作品である。世界人口が20億人を超えたのは1930年頃で、1950年には25億人強と想定されている。
 本書の邦題20億の針とは、つまり、当時の世界人口を反映した数字である。

 生物(知的生物を含む)を宿主として、その身体に入り込み生きるアメーバ状の知的生命体。彼らは、宿主との関係をきわめて大切に考える。宿主の健康を維持し、病原体を排除し、怪我したときの血液の流出さえ止めてしまう。しかし、中には、宿主のことを考えずに行動する異常体があり、彼らは犯罪者として、彼らの警察官に追われることとなる。
 宇宙船で逃走中の犯罪者「ホシ」を追跡していた警察官「捕り手」は、ホシを追って地球に墜落する。捕り手は、地球人の少年に寄生し、正体を明かして、少年とともにホシを追う。ホシもおそらくは地球人に寄生しているであろう。島にいる人口は160人ほど。おそらくこのなかにホシがいるはずだ。少年はときおり、捕り手こそがホシではないかと疑いながらも、捕り手に協力し、行動していく。

 宇宙人との共生。共生による(若干だが)超人的能力の獲得。宇宙人の犯罪者を追いつめる行為。どこかで聞いた話ではないか?
 本書は、その後のSFなどに多大な影響を与えた作品である。

 大原まり子の「エイリアン刑事」(1991年・朝日ソノラマノベルス)には、冒頭に本書に謝意が表され、本書の和訳で出てきた犯人の呼称「ホシ」をそのまま使っている。
 ゆうきまさみが現在セルフリメイクしている「鉄腕バーディ」もまた、似たような設定を用いている。
 古くは、1966年に放送が開始された「ウルトラマン」も、宇宙の警察であるウルトラマンが、地球人ハヤタ隊員と共生して怪獣を倒していく話である(ちなみに、本書の文庫初版は1963年となっている)。
 大原まり子の「エイリアン刑事」を除けば、本書に触発されたものかどうかは不明だが、似たような設定は探せばいくらでも出てきそうな気がする。
 もっとも、本書の場合、ほとんどアクションはなく、むしろ、推理小説のような理詰めの犯人探しが軸になっている。秘密を抱えた少年探偵の物語と言ってもよかろう。

 書かれたのが半世紀以上前であり、設定に古さはあるものの、今読んでも、そのおもしろさは少しも減じない。
 後日談として、本書発表から28年後の1978年には続編も書かれている。
 アメリカでも衰えない人気があったのだろう。

 古典SF必読の一冊としたい。


(2005.2.5)



TEXT:丸目はる
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