はるの魂 丸目はるのSF論評


ハッカーと蟻

THE HACKER AND THE ANTS

ルーディ・ラッカー
1994


 ネット社会、テレビのデジタル化、ITバブル、カーナビ、自己増殖するワーム、グローブと追随可能なモニターによる仮想現実(バーチャルリアリティー)の実現、遠隔操作と自律型のロボットの実用化…書かれている内容はさほど「未来的」ではない。
「ソフトウェア」などのぶっとびもない。
 それだけに、堅実に読むことができる。普通の近未来小説として読んでもよい。

 ルーディ・ラッカーが1994年に発表し、日本では、1996年秋に邦訳された作品である。
 この手の小説は、それがいつ発表されたか、によって、評価が決まると思う。
 私は、1995年をひとつの指標にしている。好き嫌いはともかく、マイクロソフト社がWINDOWS95を発表し、本格的なインターネット時代とITバブルを引き起こしたのがこの頃からであるからだ。INTEL社のPENTIUMプロセッサと、MICROSOFT社のWINDOWSから、WINTELと呼ばれたCPUとOSの2社独占時代が生まれたのもこの頃からである。
 日本では牛柄のパソコンが安く売られ、本格的な自作パソコン時代ともなった。
 私もずいぶん秋葉原詣でを行ったものだ。メモリの増設、CPUの交換をはじめ、ソフト、ハード面をいじる楽しい時期でもあった。

 あれから約10年である。

 日本でもテレビのデジタル放送化がはじまり、2011年にはアナログ放送がなくなる予定となっている。すでに1M強のブロードバンドはあたりまえで、占有100Mの光ファイバさえ安価に家庭で導入することが可能になっている。  パソコンの能力は、すでに家庭での必要不可欠をはるかに超え、次のステップにどうすすむか先が見えないままに周辺機器だけが短期的に進化しては落ち着きを見せている。
 もうデジカメも液晶パネルも価格が崩壊しつつある。

 自己増殖するワームはあいかわらずネットのトラフィックを食いつぶしているが、みんなインターネットはそんなものだと考え、セキュリティ会社に金をとられることが当たり前になっている。
 自分ではフリーソフトのセキュリティソフトをかけておきながらも、人に聞かれれば、「信頼ある大手のソフトにしておきなよ」と大人の意見を述べておく。メンテナンスが面倒くさいから。
 そう、メンテナンスは面倒くさい。
 メンテナンスなんてしたくない。
 人間の欲望に切りはなく、制約もない。
 だから、インターネットと端末は進化し続けるしかない。
 たとえロボットが実用化されても、また人間の欲望の中に進化をせまられるしかないのだろう。
 ロボットは、その名前の通り、人間に隷属するしかないのだろうか?
 人間は、ネットを使いこなしているのだろうか、それとも隷属しているのだろうか?

 そもそも書くことがないから思いつくままに文を書き連ねているのだが、それができるのが人間のおもしろさで、言葉と道具があるからこそ、これができる。ネットとパソコンに、そしてそれを開発し、メンテナンスしているIT技術者と経営者に感謝。たとえ、生き方が違ったとしても。

 本書が駄作ではない。とっても好きでおもしろいのだ。しかし、あらすじや感想を書きたい作品というわけではない。読んでいるその時間が楽しい。
 こんな未来ってすぐそばだよなあ。え、来てる?

(2005.2.7)



TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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