はるの魂 丸目はるのSF論評


無限アセンブラ

ASSEMBLERS OF INFINITY

ケヴィン・J・アンダースン&ダグ・ビースン
1993


 究極のナノテクを、ファーストコンタクトと組み合わせることで、現代に描き出した作品。本書でも作品中になんどか名前が登場するエリック・ドレクスラー博士が、「創造する機械−ナノテクノロジー」(Engines of Creation 邦訳はパーソナルメディア刊 2001年)を発表したのが1986年。究極の微小機械によってボトムアップ式にアセンブルされる、なんでも生み出せる魔法の技術の未来を提示し、さまざまな分野に影響を与え、今日ではちっともナノではないのに「ナノテク」や「ナノ」を名乗る企業まで出てきて、ちょっとしたナノブームになっている。最近の「日経サイエンス」でおちょくっていたけれど、「.com」企業ブームも笑えるが、「ナノ」を社名に付けるのはいかがなものか? そんな「極微」な会社に人は投資するのだろうか? 不思議な時代である。
 さて、本書は1993年に発表されたナノテクSFである。時代は、ちょっと先の未来。だから当然ナノテクなどまだ夢の話で、南極の隔離された研究所で2人の研究者がようやく実験体を自己増殖に導くところまでたどり着いた頃の話である。
 一方、月は開発がはじまり、火星への長期滞在型の有人探査に向けて準備がはじめられていた。
 国連はやや力を強め、核兵器は、一部国連管理下で抑止力として保持され、残りはすべて廃棄された、そんなちょっと先の未来。
 月の裏側、宇宙観測用の超長波アンテナが設置されたダイダロス・クレーターに異変が起こった。突然機能を停止したのだ。修理に向かう3人がそこで見たものは、欠けたアンテナと大きな穴、そして見たことのない構造物。彼らは近づきすぎ、全員が死亡する。
 この事故と異変を受けて調査に乗り出すが、やがてそれは、地球外のナノマシンの活動であることが判明する。急きょ、南極から人付き合いの悪い女性研究者のエリカ・トレイスが月に派遣される。しかし、できる限りの防疫対策をしていたのに、彼女をはじめ、月基地の全員がナノマシンに汚染されてしまった。
 なぜ、彼女たちは死なないのか、ナノマシンの目的は? 誰がナノマシンをつくったのか? どこから、どうやって来たのか? 地球にもしナノマシンが侵入したら、人類はどうなるのか?
 危機管理にうろたえる地球、封鎖され地球に帰ることさえ許されずにいらつく月基地、そして、ひとり残されたナノマシン研究の大家であるジョーダン・パーヴ博士が発見した驚愕の事実。
 ナノテクの恐ろしさと可能性を素直に書き連ねた合作である。
 ハードSFとして押してみたいのだが、ちょっとおどろおどろしくSFホラーっぽく書こうとしたところも見受けられ、その点からどっちつかずの感を生みだしている。それはそれとして、軽くナノテクテーマの作品が読めることはうれしいことだ。

 ところで、共作者のひとり、ケヴィン・J・アンダースンの名前を最近どっかで見たのだが、どうにも思い出せなかった。今、自分の論評集の作家別リストを見ていたら、彼の名前があった。なんと、「デューンへの道」でブライアン・ハーバートと共著しているのがアンダースンではないか。
 そうか、彼か。なるほど、なるほど。なにがなるほどなのかは、「デューンへの道」と本書を両方読んでみて欲しい。きっと、アンダースンの指向がわかることだろう。


(2005.2.15)



TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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