はるの魂 丸目はるのSF論評


ゲイトウエイ2 蒼き事象の水平線の彼方

BEYOND THE BLUE EVENT HORIZON

フレデリック・ポール
1980


 悩める青年ロビネット・ブロードヘッドは、いまや地球の大金持ちの中年男である。美人でコンピュータプログラミングの天才科学者を妻に持ち、彼女が生みだした科学アシスタントプログラムのアルバート・アインシュタインと、いまだ不在の異星人ヒーチーの謎やブラックホールをはじめ、宇宙の成り立ちについて終わりなき議論を続けている。
 かつてのヒーチー船による旅は、その後の調査で、より安全性が高まってきたが、いまだにヒーチーの遺体はおろか、その詳しい情報がまったく得られていなかったのだ。
 一方の宇宙。彗星の巣・オールト雲で発見されたヒーチーのCHON食料工場の探査に選ばれた1家族4人が、遅い地球の船で3年半の旅を続けてきた。地球の食糧難を解決するために、彼らは往復8年の旅を選んだのだ。もちろん、成功すれば彼らには計り知れない富が約束される。
 一方の地球。人間をはじめ、少しでも知性や理性のある生命体は過去10年に渡って130日症候群に悩まされていた。およそ130日に一度、人間は突然すべての人類が同時に悪夢と狂気に襲われ、その衝動ゆえに経済活動が止まり、さまざまな事故が発生し、人命と経済を失ってきた。その原因は分からない。
 一方の食料工場。ウワンと呼ばれる少年が、食料工場と巨大なヒーチー船との間を行き来しながらひとりだけで生きていた。彼は人間であり、情報体となったデッド・メン(死者)とオールド・ワンズ(古代人)との間で生きのびてきたのだ。なぜ、彼はそこにいるのか? 彼は何者なのか? デッド・メンとは? オールド・ワンズとは?
 あいかわらずの主人公ブロードヘッドは、130日症候群による経済損失への復旧に追われ、いたるところで起こる訴訟に悩まされ、妻が事故に巻き込まれて瀕死の状態になったことで動揺し、探査船から来る間欠的な情報、しかも光速でも50日かかるのだ! に一喜一憂し、できることと、やるべきことと、やりたいことの間で、またも、悩みながら、ヒーチーの不在と絶望する人類の行く末をおもいやるのだった。
 基本的には前作の謎解きの一部であるが、本書でもまだ異星人ヒーチーは出てこない。
 ただ、もしかしたらヒーチーがやろうとしているかも知れないこと、ヒーチーがいるかも知れないところ、そして、その目的について、本書は70年代のホーキング理論を提示しながら大胆に予測する。
 まあ、予測すると言っても、作者が自らの作品の予測をしているわけだから、続編にはその答えが出てくるわけだが、本書は、前作の謎のいくつかを解決するとともに、より大きな謎をいくつか生みだして、読者を放り投げる。
 さあ、次を読め! ということだ。

 ところで、アルバート・アインシュタイン・プログラムを構成しているのは、約600億ギガビットの情報だそうです。600億ギガビット! やるねえ。1980年代に、これくらいのことをふくらませるあたりが、老練なSF作家フレデリック・ポールの真骨頂である。
 SFなんだから、未来なんだから、ヒーチー技術を援用しているのだから、これくらい大きくいかないとね。同時期のSFに出てくるコンピュータに比べて、なんと立派な数字でしょう。まいった!


(2005.2.19)



TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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