はるの魂 丸目はるのSF論評


レッドシフト・ランデブー

REDSHIFT RENDEZVOUS

ジョン・E・スティス
1990


 階層ごとに光速が違う宇宙でのお話し。1階層上がるごとに、光速が半分になっていく。この超空間の特徴を利用して恒星間をつなぐ宇宙船レッドシフト。そこでは光速がわずかに秒速10メートルしかない。人間は、ライフベルトをつけることで、その身体機能を維持することができる。ちょっと走るだけで音速を超え、時計は相対論的狂いを生じる。足下と頭のてっぺんで時間の相対的進み方が異なるのだ。
 きみょうな振る舞いをする空間は、慣れない旅行客をとまどわせる。
 しかし、そこを職場にするものたちもいる。なかでも、一等航海士ジェイスン・クラフトは、船長に代わって、乗客の安全とケアも心がける。子どもの頃の忌まわしいできごとで心と身体に傷を持つ彼は、他者に対して心を開くことはない。ただ、「守るべき人」を守るためにはそのすべての能力を惜しまない。彼の行動原理は、守るべき人を守りたいだけだ。
 この変な宇宙船で起こったひとつの死が、彼とレッドシフト号を巻き込む大きな事件のさきがけとなった。

「もし、光速が10メートルで、相対論的物理学が目に見えるようなものだったら…」という風呂敷を思いっきり広げて、それだけでは小説にならないとみるや、さらにエンターテイメントに仕立て上げた作品である。
 まあ、相対性理論を「見せる」ためにとはいえ、前提となる物理学の法則が異なるものの、その宇宙の違いには法則性があるというとてもユークリッド幾何学的な階層宇宙を持ち出すところに、ハードSFとは違う違和感がある。さらに、わざわざ作者が「超ハードSF」なんていう自己解説文をつけちゃうものだから、文庫の解説者が「ぜんぜんハードじゃないよ」とかみついたりして、読ませたいのか、読ませたくないのかよく分からなくなる。
 ハードだろうが、ソフトだろうが、気楽に、「もしも」の世界を、その物理学的な制約を忘れて楽しむ分には、本書はとてもおもしろい。
 本書をきっかけに、特殊相対性理論、一般相対性理論、さらには、量子力学や現代の宇宙論までを勉強してみるのもいいだろう。
 私は高校の頃から相対性理論をかじっているが、いまだに何がなにやらで、自分の物理学的理解力と物理学的忍耐力のなさにがっくりしている。だから、こういう軽い本で、嘘だけど、なんとなく分かったような気になるのが楽しかったりする。


(2005.3.29)




TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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