はるの魂 丸目はるのSF論評


リメイク

REMAKE

コニー・ウィリス
1995


「スターウォーズ」の旧3部作(エピソード4〜6)DVDボックスを買った。新3部作(エピソード1〜3)が始まる前に、劇場で公開された特別編をさらにリメイクしたものらしく、エピソード6のダースベーダーが顔を出すところでは、顔(フェイス)が差し替えられているようである。1970年代、80年代の技術や当時の予算ではできなかった技術を使い、様々な映像が差し替えられている。
 残念なことにオリジナル版は「ないもの」として扱われており、現在では入手することも見ることもままならない。幸いなことに、ずうっと昔にテレビ放映されていたものの録画が手元にあり、それをDVD化して保存してある。おそらく、今後も表に出されることはないのであろう。
 DVDの時代になり、また、映像加工技術が進んだことで、過去のコンテンツを使って「特別版」や「完全版」が出され、オリジナルがどれなのかさえ分からなくなっている。
 お気に入りの「ブレードランナー」では、オリジナルを映画館で見て、その後、完全版も映画館で見た。そして、近年DVDで最終版とやらを見たが、最後がまったく変わっている。監督が手がけた再編集であり、それにより作品としての完成度は高くなったと思うが、オリジナル版とは遠く離れてしまった。
「デューン」の場合だともっと話は複雑で、オリジナル版をはじめ、監督のリンチが名前を出すことを拒否した版などもはやどれがどれだか分からない。
 SF映画ばかりではない。今、発売されているDVDなどのコンテンツが、オリジナルと同じかどうか、果たして分かるだろうか。
 オリジナルのふりをして、ちょっとずつどこかがいじられていないか? デジタル・リマスターで美しい映像といいながら、実は、必要以上に手が加えられていないか?
 誰かのために、なにかのために…。

 さて、本書の話であるが、ちょっとした未来、まあ、2005年頃の話だ。
 ハリウッドは、リメイクとシリーズの世界。必要なのは、過去のスターの版権と過去のスターのそっくりさん(フェイス)だけ。あとは、ちょっとした映像編集ソフトウェアと、その作業をするまめな技術者。
 世間が煙草や飲酒を害悪だと思えば、古い映画から現代の映画まで、ワンカットずつ、細かく編集していく。ストーリーを変え、動きを変え、登場人物を変え…、ちょっとしたコンピュータとちょっとしたソフトウェアとあとは権利さえあれば、すべての喫煙や飲酒は20世紀になかったような映画だってできあがる。
 もはやカジュアルコピーは許されず、オリジナルは映画制作・配給会社の都合でいくらでも改変され、それがオリジナルとなってしまうエンターテイメントの世界。
 映画出演のダンサーに憧れるひとりの女性が、映画が大好きでしかたがないのにお小遣い稼ぎに映画改変ばかりやっているひとりの男性に出あう。いや、その男性が、その女性に出会う。ボーイ・ミーツ・ガール。
 もはやダンサーの需要はなく、ダンスの先生はいない。
 もはや俳優さえ存在しない。
 なのに彼女は踊りを求めた。
 そして彼は、彼女を求めた。
 彼女は、映画の中に入り込み、そして彼は彼女を映画の中に見つけた。
 映画の中の彼女を追い求める彼。映画とダンスを追い求める彼女。
 そんなどこにでもありがちな小さな物語。
 映画が好きで、映画を愛する者たちが好きな、そんな人に贈られた小さな作品。
 映画ファンで、今のハリウッド映画にちょっとした不安を持っている方にはぜひお勧めしたい作品である。SF読みよりも、SFを読まない映画ファンにこそ、本作を味わって欲しい。
 冒頭で述べたように、本書で描かれた世界はすでに実現可能となっているのだから。

ローカス賞受賞

(2005.5.13)





TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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