はるの魂 丸目はるのSF論評


暗殺者の惑星

WALPURGIS 3

マイク・レズニック
1982


「キリンヤガ」でSF読み以外の人にも名をはせたレズニックの80年代の作品である。
 殺人にまつわるエンターテイメント作品。
 空気を呼吸するように、人を殺すことが自然であたりまえの男がいる。かれはあまたの惑星で数千万以上の人々を殺してきた。名をブラントという。
 依頼を受けた殺人を行うことを、生業とする暗殺者の男がいる。名をジェリコという。
 舞台は、善とは逆の悪を信仰することを選んだ人々が居住する惑星バルプルギス3。魔法使いの惑星である。この星にも、慣習はあり、儀式的ではない許されない殺人があり、犯罪者を追う警察のようなものがあり、刑事がいる。ここに、ひとりの刑事がいる。名をセイブルという。
 悪魔を信仰する星で、ブラントは生きた悪魔であり、それは、神を信仰する星での救世主降臨と同じである。彼はたたえられる。
 ジェリコは、ブラントの暗殺を依頼され、惑星に潜入し、仕事をこなすための殺人をおかしながら、ブラントにせまる。
 セイブルは、ブラントの暗殺者が潜入したことを知り、ブラントを守るための捜査をはじめる。
 そして、ブラントは、彼がかくまわれている都市を皮切りに、この惑星でも多くの人々を虐殺しはじめていた。
 ブラントを追うジェリコ、暗殺者を殺すために都市をすべて破壊するブラント、そして、法を守る男セイブル。3人が絡むとき、そこには死しかない。

 でてくるSF的な要素といえば、テレパシーと「植民惑星」ぐらいである。
 また、本書は、ひとつの実験的な作品である。
 70年代を経てようやく性、人間対人間の暴力的描写に慣れてきたSFという分野で、どこまでの暴力を描けるのか、レズニックは試している。
 悪を信仰する星に降り立った生きた悪と、それを殺そうとする「善ではない」暗殺者が登場人物なのである。その静かな暴力的表現は、静かなゆえにぞっとさせられるものがある。だから、そういう描写がいやな方は読まない方がよい。
 レズニックは、自分の作品のために徹底的に資料を整え、背景を構築する。そのマニアックさが、「キリンヤガ」につながるのだが、本書にも宗教的背景などでその素地は見受けられる。ただ、本書のような作品を読んでいると、レズニックはただ受けを狙って書いているのではないかと、うがった見方をしてしまう。
 その一方で、彼のテーマの中に、「死」を統べるもののありよう、「善と悪」の捉え方についての問いかけがあることを、「キリンヤガ」より初期の作品である本書はより鮮明に示している。

(2005.07.01)





TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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