はるの魂 丸目はるのSF論評
奇妙な関係
STRANGE RELATIONS
フィリップ・ホセ・ファーマー
1960
フィリップ・ホセ・ファーマーの初期短編集である。本書には、「母」「娘」「父」「息子」「妹の兄」が掲載され、1953年から1959年に発表されたものである。このうち、「母」(原題:MOTHER)と「娘」(DAUGHTER)は、連作になっており、あとの3作品はそれぞれ独立した短編となっている。「母」「娘」は、異星知的生命体と人類のお話し。「父」は、異星生命圏における異星の知的生命体と人類のお話し。「息子」は地球上での人間と人工知性体のお話し、「妹の兄」は火星の生命圏と、異星知的生命体と人類のお話し。「父」を除いて、4作品は、主人公である人類と「異種知性」とがほぼ1対1の閉ざされた状況になっており、その奇妙な関係性を問うている。
人は、知性は、異種なる他者が存在したときにどのような関係性を見るのか、その生存が他者に極めて高く依存せざるを得ないとき、どのような関係性をもって自らを位置づけ、自らの世界観に当てはめようとするのか。
私たちは、他者を理解することができるのか、できないのか。
「母」では、病理学者の母と、離婚したばかりの傷ついたオペラ歌手の息子が、異星に不時着し、それぞれ別々に知的生命体の体内に取り込まれてしまう。その知的生命体は、メスのみであり、他種の動物がある行為をすることでオスの役割を果たし、生殖を行う生命体であり、幼年期を過ぎると動かない生命体であった。動くのは「オス」であり、「オス」は知的ではない。それがその知的生命体の生命観である。そこに「オス」として取り込まれたふたりの人間。息子を主人公として物語が語られる。
そして、「娘」では、母の体内で生まれ育った「娘」が、その体内でともに暮らした「父」である知的な「オス」=人間との奇妙な生活を語り、「娘」がいかにしてその知的生命体の集合体の中で「母」をしのぐような権力を得るにいたったのかを語る。
この2作品はとりわけおすすめである。
「父」や「妹の兄」では、人類型の異星人が登場し、コミュニケーションも容易であり、人類的である錯覚が物語の書き手/読み手を支配するが、「母」「娘」では、異星人が実にみごとに描かれ、その繁殖と成長が、異星人の思考を形作っていることを示している。さらに、「母」や「娘」で語られるのは実際の人間同士の親子、とりわけ、母−息子、父−娘間の関係性であり、そこに人間的なというより、むしろ男性的な性欲を持ち込めないが故に、それらの関係性が「奇妙」であることを鋭く描き出している。
そもそも、ファーマーは、SF界のタブーを破り、生々しい性をSFに導入した作家とされている。しかし、生々しい性には、「関係性」がつきものである。彼はそのことをよく理解した上で、SFという状況をうまく生かして生々しさの中に「関係性」を表現したのだ。
もちろん、現在にいたっては、そんなタブーなどSF界には存在せず、だからこそ生々しさも減じている。現実の世界でも、秘められていたはずの「関係性の奇妙」さが、インターネットやテレビなどによって、あたりまえに語られるようになり、サブカルチャーとカルチャーの境目が薄れているのだから。
でも、それだからこそ、ファーマーが描き出した、岩のようなものに包まれて動かず、じっと異種のオスを待ち、生と性を内部にて行うメスだけの異星生命体は、象徴として、具象として、今の我々にも迫ってくるものがあるのではなかろうか。
(2005.9.22)
TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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