はるの魂 丸目はるのSF論評
ヴォル・ゲーム
THE VOR GAME
ロイス・マクマスター・ビジョルド
1990
ネイスミス・シリーズで「戦士志願」に続く物語である。マイルズ・ネイスミスは20歳、士官学校を無事卒業したものの、彼に要求されたのは「上官への服従」。もとより、誰かに服従することができないマイルズ・ヴォルコシガン少尉は極北の歩兵冬期訓練基地に気象観測士官として着任することを求められる。6カ月の勤務を無事にこなせば、予定されている新造宇宙戦艦への転任が保証されている。しかし、もちろんそうはいかない。
極北の基地でトラブルにみまわれ、次に着任したのはイリヤン機密保安庁配下の大尉の下だった。大尉の下で、緊張関係にある空域にいる、デンダリィ傭兵隊をはじめとする動向調査におもむくことになる。もちろん、マイルズの役割は、大尉の指揮に従って、必要に応じてネイスミス提督の役割をもう一度演じること。
ところが、ふたたび彼を襲うトラブル、いや、彼が招いたトラブルというか。さらには、もうひとりの「トラブルメーカー」が登場し、ヴォルコシガン少尉/ネイスミス提督/武器商人ヴィクター・ローザである、マイルズ・ネイスミス・ヴォルコシガンは、のっぴきならない立場に追い込まれてしまう。
しまいには、星間戦争一歩寸前まで進んだ緊迫した情勢の中で、彼は守るものを守り、奪うものを奪い、取り返すものを取り返し、そして、上官の命令を聞くことができるのか? 彼が選んだ選択は??
ということで、展開のはでな作品である。どの作品も展開ははでなのだが、本作品は、新任士官という立場と、行方不明のままだった傭兵隊提督という立場、それに、偽装のための立場、トラブルの結果抱え込んでしまった立場と、マイルズも自分で自分の立場が混乱してしまうような状況を、行き当たりばったり、はったり、口八丁、偶然の切り返しで解決し、さらに大きなトラブルまでもなんとかする、読後感はすっきり爽快な作品である。
本シリーズでは、遺伝子改変と人間性がテーマになる作品も多いが、本書「ヴォル・ゲーム」にはそのような深いテーマはない。「皇帝であること」「貴族であること」といった、「逃れようのない身分」のありよう、「義務と信念」についての考え方、あるは、「軍の指揮と個人の意志」みたいなものを話の筋におきながら、楽しくマイルズを楽しむことができる。
SFの要素を抜くと、「軍事スパイもの」作品といってもいいぐらいだ。
もちろん、宇宙空間で戦艦同士の戦闘など、スペオペ要素もたっぷり入っていて、SFならではの趣向もこらされている。
主人公たちの丁々発止の会話と、きちんと間に挟まる必然性のある戦闘シーンなど、本書「ヴォル・ゲーム」がヒューゴー賞を受けるのも納得である。
ヒューゴー賞受賞
(2005.10.5)
TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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