はるの魂 丸目はるのSF論評


啓示空間
REVELATION SPACE

アレステア・レナルズ
2000


 本文1032ページの文庫本。辞書か弁当箱か…。ハリー・ポッターの5巻(英語版)も弁当箱だったが、文庫でこのサイズとは恐れ入った。重量500g。いつも使っている文庫カバーをまくことができなかった。いつも本屋ではカバーをしてもらわないので、この本もカバーなしで購入したが、本屋さんはこの本をどうやって巻いているのだろうか。いや、巻けるのか?

 10億年前、宇宙では黎明期戦争と呼ばれる戦争があった。そして、この銀河宇宙に知的生命体の痕跡が消え、そして、いくつかの知的生命体が生まれては、消えていった。人類は、宇宙でそんな文明の痕跡を見つけながら、宇宙の謎、知的生命体に出会えない謎を追い求めた。本書「啓示空間」はそんな26世紀の物語である。
 宇宙考古学者のダン・シルベステは、イエローストーン星の有力家の出身。リサーガム星の文明が99万年前に滅んだ理由を探ろうと調査移民をひきつれてやってきたが、その後、妻に調査船ごと奪われてリサーガム星に足止めをくらい、そして、統治をめぐってクーデターが起こり、失脚する。ダン・シルベステの父、カルビンは、人格として認められないベータレベル・シミュレーションとして存在し、ときおりダンの相談相手となっている。
 はるかイエローストーン星では、シルベステ暗殺の計画がはじまっていた。
 いっぽう、近光速で移動することができる巨大な宇宙船ノスタルジア・フォー・インフィニティ号は、機械と生体が混ざり合う融合疫におかされたサイボーグ船長を治療するためにシルベステ親子を捜していた。
 失脚しても、とりつかれたようにリサーガム星の文明崩壊の秘密を探ろうとするシルベステ、そのシルベステの過去を知ろうとする若き女性のパスカル、そして、シルベステを殺そうとするアナ・クーリと、近光速船のイリア・ボリョーワの出会いが、2566年のドラマに向けて動き出す。
 近光速による時間の相対性があるために、主観時間は2460年から2567年に渡っての物語であるが、登場人物はそれぞれの主観時間で動いているので、登場人物が顔を揃える2566年を基点に考えれば、せいぜい15年ほどの物語である。
 スタニスワフ・レムの「ソラリスの海」のような惑星が登場したり、レンズマンシリーズを彷彿とさせる「黎明期戦争」が語られたり、惑星破壊級の自動起動兵器が登場したり、シミュレーション人格、長命技術、機械と生体の融合体、バーチャルリアリティなど、さまざまなSFガジェットが散りばめられている。
 本書「啓示空間」は、スペースオペラであり、ハードSFであり、ミリタリーSFであるかも知れないが、シルベステという主観時間200歳を超えてなお定まらない人生を背負った主人公のドラマでもある。
 おもしろいか、おもしろくないか? とりあえず1000ページを超える作品を一気に読ませるだけのものではある。だが、読み終わって、すっきりするかといえば、そうでもない。
 本書「啓示空間」は、1冊でいろんなSFをしっかりと楽しめる点では傑作なのだろう。
 歯切れが悪い? それは結末のネタばらしができないからだ。ほぼ1000ページ近くにならないと、その結末は見えてこない。だから、すっきりしたい人は、本書「啓示空間」を読んで欲しい。

 なお、個人的な趣味で、主観時間には混乱があるが記述された年号をある程度揃えて並べておく。

23世紀頃?最初のユーロパン無政府民主主義国家
2390年 シルベステ研究所が軌道上にデータを転送する
2427年 軌道上のデータ移動する
2439年頃 レイビッチ家シルベステ研究所のデータコアを破壊、シルベステ、シュラウドから生還
2460年 シルベステ、近光速船で船長を治療
2524年 イエローストーン星アナ・クーリ殺人引き受け
2543年 近光速船でイリア・ボリョーワ、ナゴヌルイを殺す
2546年 イエローストーン星にボリョーワ降り、アナ・クーリをリクルート
2551年 リサーガム星でシルベステ発掘作業
2561年 リサーガム星でシルベステ軟禁
2563年 リサーガム星でシルベステ伝記の取材を受ける
2566年 リサーガム星でシルベステ3度目の結婚、近光速船リサーガム星軌道へ、シルベステ、近光速船乗船
2567年 シルベステ、ケルベロス星内部へ



(2005.11.28) 追記 読者より主人公の名前が間違っていると指摘をいただいたので修正した。 正しくは、ご覧の通り ダン・シルベステであるが、私は「シスベルテ」と18カ所すべて誤記していた。スとルの位置が違っている。とほほ。





TEXT:丸目はる
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