はるの魂 丸目はるのSF論評


重力の使命
MISSION OF GRAVITY

ハル・クレメント
1954


 人類が宇宙に出てはるか先、知的生命体とも接触し、チームを組んで様々な星を探検・調査していた。今、惑星メスクリンで調査隊は窮地に陥っていた。極地付近に着陸した無人探査船が行方不明になり、貴重な機材とデータが得られないのだ。そこで、調査隊は、惑星メスクリンに住む未開の知的生命体と接触した。メスクリン人の貿易船ブリー号の船長バーレナンは商売半分、好奇心半分からこの契約を受け入れ、冒険がはじまった。
 惑星メスクリン、それは、メタンの海、水素とメタンの大気をもち、公転周期1800日、自転周期17分と4分の3、赤道付近の重力は3G、極地付近ともなると700G、表面気温−50度〜−180度の超重力の世界である。メスクリン人は、体長15インチ(約40センチ)、ムカデのような生物である。
 人類は、この惑星で自由な行動はできず、特別なとき以外は、人類がバーレナンに託したビジョン・セットと呼ばれるテレビ無線機でメスクリン人と情報を交換し、指示するだけである。
 早々に英語を覚え、人類らの科学や知識、道具の秘密を知りたくてたまらないのに、そんなそぶりをみじんも見せず、人類の友だちとしてふるまうユーモアたっぷりの商売人バーレナン船長と、船長よりも頭がよく、知的で無骨な一等航海士ドンドラグマーが、貿易船ブリー号とクルーを率い、彼らが行ったこともない赤道から極地までの長い旅に出る。
 人類が次々に繰り出す「科学」の魔法、そして、バーレナン達でさえ見たことも聞いたこともない生物、気象、別のメスクリン人たちとの出会いと冒険の末、彼らは700Gの世界にたどりつくのだった。
 本書「重力の使命」は、ハル・クレメントが、アイザック・アジモフ(アシモフ)と議論をして生みだした超重力惑星とその生命体の物語であり、ハードSFの傑作として今も評価が高い。メタンと水素に関わるエピソードも多いが、やはり特異な生物を通して、特異な惑星と重力の影響について一般の読者にもおもしろく読ませるあたりが評価される所以だろう。
 中性子星上の生命を描いたハードSF「竜の卵」(1980 ロバート・L・フォワード)は、「重力の使命」の中性子星版として評されたが、この例が示すようにSFのスタンダードとして今も本書「重力の使命」はSF界に燦然と輝いているのだ。
 ハル・クレメントは、「二十億の針」の寄生生命体とものと合わせてふたつの名作をものにしている。寡作であり、日本でもあまり翻訳されていないが、本書もまた必読の古典SFとして挙げておきたい作品だ。


(2006.1.31)





TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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