はるの魂 丸目はるのSF論評


宇宙のスカイラーク
THE SKYLARK OF SPACE

E・E・スミス
1928


 人類がついに太陽系を越えた記念すべき作品が、E・E・スミスの処女作「宇宙のスカイラーク」である。物理化学者リチャード・シートンがプラチナの精製廃溶液から発見した未知の金属Xは、世界の物理学とすべての産業や世界のあり方を変えるものであった。
特殊な機械の場の影響を受けた状態の銅と未知の金属Xが接触すると、Xを触媒として銅が100%エネルギーに転換するのである。熱なし。放射能なし。残留物なし。クリーンで史上最強のエネルギー源である。
 リチャード・シートンは親友の大金持ちでロケット研究家、技術者のレイノルズ・クレインの発案で会社を設立、宇宙船を建造する。シートンの婚約者ドロシーは、この宇宙船にスカイラークと命名。建造は順調に進んだ。
 しかし、シートンの元同僚でぬけめのない冷徹な研究者マーク・デュケーヌが、シートンの発見を察知、かねてからつるんでいた悪徳鉄鋼企業の支店長らと共謀してシートンを殺害し、金属Xと研究ノート類を奪おうとする。
 シートン殺害は失敗したものの、金属Xの一部と研究ノート類を奪い取ったデュケーヌは、スカイラーク号と同じ宇宙船を建造し、ドロシーらを誘拐したのだった。
 愛する婚約者を奪われ、デュケーヌの乗った宇宙船を追いかけようとするシートン。しかし、スカイラーク号の完成は遅れた。一方、デュケーヌやドロシーらが乗った宇宙船もまた、事故を起こし、光速をはるかに超える加速度で太陽系を超えて暴走し、死んだ太陽の重力の井戸に落ち込んでしまう。
 スカイラーク号は、その危機を乗り越え、ドロシーと、もうひとりのとらわれの美女マーガレットを救出し、デュケーヌをとらえる。
 しかし地球に帰るための銅はつきてしまった。銅を求めて宇宙をさまよい、降り立った惑星で、スカイラーク号一行は人類型異星人同士の争いに巻き込まれてしまう。
 スカイラーク号は、それまでの鉄鋼からこの惑星で作られる鉄よりも強度の高いアレナックに装甲を付け替え、この争いに加わったのだった。
 そんな話である。もちろん、みな地球に戻り、ドロシーとシートンは結ばれ、クレインは美女マーガレットと恋に落ちる。そして、デュケーヌは地球で逃亡する。次への予感を残して。
 解説によると、本書「宇宙のスカイラーク」は1920年にはほぼ完成し、8年後にようやくアメージング誌に売れ、掲載と同時に爆発的ヒットとなったようだ。本シリーズは、E・E・スミスの処女作であり、4作品が書かれている。そして、第4作は遺作でもある。
 レンズマンシリーズと並んで、スペースオペラ不朽の名作といえよう。
 もちろん、今読めば、いや、約30年前に初めて読んだときであっても、「それはないよなあ」というシーンはいくらでもある。40Gがかかっているのに死なないとか、塩がまれな呼吸可能な惑星で人類型異星人がいるとか…。でも、30年ほど前、はじめて本書「宇宙のスカイラーク」に接した私は、12歳ということもあったがそんなことにはちっとも気づかなかった。ただわくわくと大宇宙を旅していたのだった。
 奥付を見ると、1967年が初版で、私は1977年1月の第23版を買っている。当時260円。親に頼んで、田舎の本屋に4冊揃ってとりよせてもらったのだ。本屋さんが、ほかの本と一緒にこのシリーズをわざわざ家まで届けてくれた日のことは忘れない。
 まだ、「すかいらーく」という名のファミリーレストランの存在すら知らなかったころ、スカイラークといえば、雲雀(ひばり)という時代のことである…。

ところで、本書を歴史的にみれば、すでにサイクロトロンへの言及がある。しかし、まだ現実には着想段階だったのだ。今読めば荒唐無稽な話ばかりだが、1928年以前の着想であることを忘れるわけにはいくまい。

(2006.02.07)





TEXT:丸目はる
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