はるの魂 丸目はるのSF論評
ヴァレロンのスカイラーク
SKYLARK OF VALERON
E・E・スミス
1935
スカイラークシリーズ第三弾は、ヒトラーが台頭し、スターリンが台頭するなかで発表された。アメリカは、ルーズヴェルト大統領のニュー・ディール政策の時代である。
さて、前作ではすっかり影をひそめていたデュケーヌ博士が帰ってきた。スカイラーク3号がフェナクローン人を絶滅させる間に、彼は、フェナクローンの宇宙戦艦を奪い、その後、ノラルミン人をだまして、スカイラーク3号と同型の宇宙船をせしめる。その船を使って地球に帰り、地球で無血革命を起こし、地球の領主となった。
一方、スカイラーク3号は、フェナクローン人最後の宇宙戦艦を破壊し、地球を含む第一銀河系から遙か遠くの銀河間宇宙空間を旅していた。そこで、シートンはかつて純粋知性体に遭遇したことを思い出し、第六次光線の可能性から彼らの危険性を知る。純粋知性体はスカイラーク3号に攻撃をしかけ、その結果、スカイラーク3号は破壊され、シートン達は中につまれていたスカイラーク2号をスピンさせて四次元世界にはいることで命からがら逃げ出す。
四次元空間で、四次元人達とのコミュニケーションに失敗し、なんとか通常宇宙に戻ったスカイラーク2号とシートン達だが、宇宙で迷子になる。
そこで、シートンは、手近な惑星系でスカイラーク3号の再建を考えるが、出会った人類の居住する惑星ヴァレロンは、塩素系のアメーバ異星人クローラ人に支配されていた。シートンは、その多くの惑星の人類型知性体の頭脳が統合された精神力と物理的な純粋力によってクローラ人を圧倒し、ヴァレロン人を解放する。そして、ヴァレロンのもともと優れた科学力を活用し、人工知能ともいうべき「頭脳」をそなえた、スカイラーク3号よりも大きくひとつの小惑星ほどの新しいスカイラーク号「ヴァレロンのスカイラーク」を完成させる。
緑色太陽系人達は、シートンの宿敵デュケーヌ博士に力を与え、地球圏が彼の支配となったことに怒り、シートン不在の中でデュケーヌ征伐に乗り出すが、デュケーヌの鉄壁の守りにより敗北してしまう。
そこに、「大宇宙空間のすべての宇宙の、すべての銀河の、すべての太陽の物質を崩壊させることによって解放される動力を用いて駆動されている」ヴァレロンのスカイラークと頭脳が帰ってくる。
ヴァレロンのスカイラークと頭脳は、潜在的に脅威となる純粋知性体を捕捉し、ついでに、地球のデュケーヌも捕捉、彼を非物質化して純粋知性体に変え、時間を静止させて遠い宇宙の果て、「超宇宙の、大宇宙すべてをこめての、究極的に無限の言語に絶した広大無辺の彼方」へ送り込んだのであった。
地球に平和が訪れ、シートン夫妻は安心して二世づくりに励むのであった。めでたしめでたし。
これほどまでに、大宇宙の、超がついて、無限大の、言葉にはできない、荘厳な、形容詞の多い、作品はないのであろうか。シートンの活躍を大宇宙規模にみせるための言葉の羅列が、ちょっと、今となっては、つらいなあ。
これにて、スカイラークシリーズは終わり、レンズマンシリーズがE・E・スミスの中心、スペースオペラの中心に移っていくのである。
(2006.2.19)
TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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