はるの魂 丸目はるのSF論評
スカイラーク対デュケーヌ
SKYLARK DUQUESNE
E・E・スミス
1965
スカイラークシリーズの後、第二次世界大戦前、戦時中、戦後にかけて不朽の名シリーズ「レンズマン」を書き上げたドク・スミスは、その最後の仕事に、スカイラークシリーズ第4巻を選んだ。すでに、1960年代になり、スカイラークの設定は古くさくなっていた。もっとも、レンズマンでさえ、その設定は古くさいのだが、そういうのを黙らせてしまうのが、E・E・スミスとスペースオペラファンの力である。ドク・スミスは、最後に、スカイラークシリーズを書き、それまでの主人公シートンに対するヒーロー的愛を、デュケーヌに振り向ける。
本書で、シートンとデュケーヌは、宇宙に広がる人類型知性の真の危機に対して一時的に手を結ぶが、そのたびにデュケーヌはシートンを裏切り続ける。
それでも、デュケーヌを「悪」としては描かず、冷静に自らの利益を考え、その演繹として人類の危機に対処し、シートンとも手を結ぶことのある理解できる超人として描く。
最後の最後に、デュケーヌは人類型知性を守るためにシートンに手を貸し、彼を救い、そして、銀河系をひとつ手に入れる。美しき知的なパートナーを得て、皇帝マーク1世の誕生を予感させて、本書は終わる。
そこには、シートンやクラインの「かよわき」妻の姿はなく、冷徹なデュケーヌと対等に立つ女帝の姿がある。
デュケーヌ、かっこいいじゃないの。
そこに30年の「読者」の変化があるのだろう。そして、「読者」を忘れないドク・スミスの答えがあるのだろう。
本書では、過去3巻に登場したあらゆる敵やキャラクターが登場する。また、レンズマンシリーズの後半に見られた「現在の科学では解明できない人間の精神的能力」が魔法のように登場し、物語を盛り上げる。
本書を発表し、19世紀の1890年に生まれた稀代のSF作家、スペースオペラの大家は、75年の生涯を終え、「エーテル」と、相対論を無視した時間軸の時代は幕を降ろすのである。
(2006.2.19)
TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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