はるの魂 丸目はるのSF論評


サンダイバー
SUNDIVER

デイヴィッド・ブリン
1980


 デイヴィッド・ブリンの代表的なシリーズ「知性化」ものの最初であり、ブリンのデビュー作でもあるのが本書「サンダイバー」である。
 人類が、イルカとチンパンジーに知性をもたらし、宇宙への探検に出た。しかし、それは、いくつもの銀河系にまたがる異星種族による銀河文明による人類の発見でもあった。銀河文明は、伝説の<始祖>と呼ばれる種族にはじまる、知性化によって、各種族が宇宙種族となり、その膨大なデータベースである<ライブラリー>と銀河の諸法によって規定された厳密な階層社会となっていた。すべての異星種族は、その種族を知性化した主族を持ち、その種族はいくつかの類族を知性化していた。そして、知性化された類族は、知性化した主族に10万年に渡る奉仕を要求され、同時に、その主族が滅ぶまで、知性化の連鎖から逃れることはできない。そして、現在の銀河系に知性化の連鎖を持たない知的宇宙種族はいないはずであった。
 そこに人類が登場した。彼らは、イルカとチンパンジーという類族を知性化し、自ら宇宙に乗り出した種族であったが、主族の存在を知らなかった。ときおりこのような主族に放置された類族が見つかることはある。それらの主族は孤児と呼ばれ、どこかの主族に属し、知性化の完成をされることとなる。しかし、人類は自ら類族を生みだしており、<ライブラリー>にも、彼らの主族を暗示する情報はなかった。
 果たして、人類は、自ら知性化を果たした<始祖>と同じような存在なのだろうか、それとも、主族に忘れられ、変質した宇宙の孤児なのだろうか。
 いくつかの異星種族が地球に降り、人類が銀河文明に参加できるようにするため、あるいは、人類を自らの知性化の連鎖に組み込むために人類との接触をはじめていた。
 人類とイルカ、チンパンジーは、銀河文明の真の牙を知らない無垢な存在であった。

 さて、人類が銀河文明に触れて約半世紀が過ぎた。2246年、太陽の調査基地がある水星では、太陽をめぐる新たな発見に驚愕していた。太陽に生命がいるようなのである。
 人類に与えられた<ライブラリー>の小さな分館を探しても、太陽に存在する生命についての記述はない。そもそも、太陽に本当に生命がいるのか? もし、本当に太陽に生命がいるとすれば、もしかすると、この太陽にいる生命こそが、人類を知性化し、その後、銀河の物質的文明から引退した主族なのではないだろうか?
 そこで、人類と人類に好意的な育成協会を担う異星種族カンテン、ライブラリーの管理を担い、人類には冷淡な異星種族ピラ、その類族プリング、それにチンパンジーの研究者が新造船<ブラッドベリ>に乗り込み、水星基地に向かう。
 サンダイバー計画。それは、太陽降下船サンシップに乗って、太陽に直接近づいて調査する計画である。
 銀河文明接触以前にも試みられたが、銀河文明のライブラリーによる科学技術と人類の原始的な技術を加えることで、より優れた調査ができるようになったのだ。
 水星基地とサンシップで繰り広げられる陰謀に次ぐ陰謀。
 それは誰のための陰謀なのか? そして、その陰謀が、人類を危機に陥れる。

 まあ、そういう話である。
 個性豊かな異星種族が出てくる。どの主族も独特の癖があるが、銀河文明はある意味で固定化し、創造性に欠けるらしい。ということで、人類の出番である。なんといっても銀河の「鬼っ子」だから、異星種族には想像もつかないようなことを行う。特に、その中でも、主人公のジェイコブ・デムワは、科学者でありながら、シャーロック・ホームズばりの推理力と直感力、それに加えてばつぐんの行動力を持つ。しかも、過去に心の傷を負う男である。そこに登場するのが、実年齢25歳だが、相対年齢90歳であり、文化的に異質な精神を持つエレン・ダシルヴァ。人類として宇宙に乗り出し、あまつさえ、銀河文明と接触し、それを連れ帰ってくるにいたった探査船のスタッフで、現在は、水星基地の責任者をやっている。現在の地球文化になじめない彼女は、やがてもう一度宇宙に出るつもりだ。
 ジェイコブの心理描写を中心に、物語はブラッドベリ号、水星基地、サンシップという3つの密室の中で激しさを増す。議論あり、心理戦あり、派手なアクションあり、裏切りあり、信頼あり、と、背景に人類の存亡までかかるわけで、なかなか大層な物語となっている。
 デイヴィッド・ブリンの作品は、スタートレックやハリウッドのSF映画を見ているような気持ちになる。難しいことを考えてはいけね。
 太陽という壮大な天体を舞台に広げられるドラマは、これぞスペース・オペラと言わんばかりである。ただ壮大なだけではない。デイヴィッド・ブリンは、同時に天体物理学者であり、歴史学にも造詣が深い。太陽の物理学を肌で感じられるような情景描写もばつぐんである。
 読み終わって、ああおもしろかったと言えるバランスのいいアメリカSFだ。


(2006.5.6)  





TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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