はるの魂 丸目はるのSF論評


スタータイド・ライジング
STARTIDE RISING

デイヴィッド・ブリン
1983


 銀河文明との出会いから250年が過ぎた。人類は、イルカとチンパンジーを知性化していたことで、銀河文明にささやかな地位を与えられ、いくつかの植民惑星を借り受けていた。しかし、銀河列強種族のほとんどは人類を知性化の連鎖を乱すものとして嫌い、そのいくつかは過去に起きたできごとから人類を憎み、あるいは、自らの類族にしてその遺伝子をいじりたいと願っていた。わずかに3つの種族が、それぞれの動機を持って人類に対し友好的であったが、銀河列強種族に対して強い立場を示すほどではなかった。
 人類は、銀河文明のパワーバランスの中で、いつ滅ぼされてもおかしくない状況にあったのだ。
 人類が知性化し、銀河文明の法では人類の類族と位置づけられたネオ・ドルフィンの能力を確かめるために船出した探検船ストーリーカーは、銀河文明を揺さぶる大発見をしてしまった。それは、知性化の連鎖の最古に連なる<始祖>と関わりがあるかも知れない漂流する5万隻の宇宙船団であった。銀河種族が訪れることのない場所で太古の宇宙船団を発見したために、ほとんどすべての銀河列強種族によるストーリーカーの拿捕作戦がはじまった。他の異星種族より先にストーリーカーをとらえ、その発見を独占すべく、ストーリーカーの追跡と、他の異星種族をけ落とすための銀河戦争がはじめられた。
 地球は、なんとか友好種族によって守られているようだが、他の植民星の動向は分からない。なによりも、ストーリーカーは生きのびて、地球に宝となる知識を持ち帰らなければならない。
 しかし、敵は銀河列強種族。そして、すでにストーリーカーは傷ついている。
 ストーリーカーに乗っているのは、150人のイルカと7人の人間、ひとりのチンパンジー。すでに10人のイルカが発見時に死に、そして、銀河列強種族の追跡のストレスに、知性化されて歴史の浅いイルカたちの一部は退行をはじめていた。
 ストーリーカーは、隠れ、補修するために銀河種族が放置している惑星キスラップの海に潜った。ここならば、イルカたちが必要な金属を発見できるかも知れないからだ。しかし、もちろん、銀河列強の種族達は、ストーリーカーがどの星系に転移してきたのか分かっている。追跡の船団は次々と惑星キスラップの星系に入り、お互いが宇宙戦を開始していた。
 はたして、この危機から逃れることができるのか?
 しかし、発見という神様に見初められたストーリーカーは、今度は、この惑星キスラップでも、ふたたび大きな発見をしてしまう。
 銀河列強の異星種族同士の闘い、未知の惑星キスラップをめぐる冒険、イルカ同士、イルカと人類、イルカとチンパンジー、それぞれの思惑、くわだて、陰謀、裏切り、信頼…。そして、作戦。
 癖のあるスタートレックやスターウォーズばりの異星種族達。いかにも、知性化されたイルカやチンパンジーならこうなるであろうという言動や行動。親しみやすいキャラクターと性格付けが、特殊な惑星キスラップの姿を違和感ない背景にしながら物語を展開する。実は、惑星キスラップの姿こそ、SF的なのだが、それを感じさせずに、宇宙戦争やストーリーカーのクルーたちの“人間”関係が軸になるあたり、デイヴィッド・ブリンのうまさである。なに? 人やイルカや異星人がステレオタイプだって? でも、だからこそおもしろいでしょ。
 ステレオタイプの人物描写にはそれなりのよさがあるのだ。
 この「スタータイド・ライジング」は、どうして映画化されないのだろう?
 あ、ちょっと長すぎるんだな。内容が。「スタータイド・ライジング」を映画にしようとすると、かなりはしょらなければならない。読むしかないよ、これは。
 さあ、ストーリーカーに乗って、危機を脱出しよう! って、ゲームっぽいね。


ヒューゴー賞、ネビュラ賞



(2006.5.6)





TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
(スパム防止のため、全角表記にしています。連絡時は、半角英数にてお願いします)

作家別テーマ別執筆年別
トップページ