はるの魂 丸目はるのSF論評
スターバースト
FROM A CHANGELING STAR
ジェフリー・A・カーヴァー
1988
ナノテクものである。ひとりの科学者が、記憶喪失で自分自身を発見する。どうやら殺されても、死んでも、生き返る再生能力を身につけている。変身もするらしい。なんで? どーして? そして、自分は誰? 何?
どうやら、自分自身の考えと、いくつかの勢力のたくらみによって、彼は、身体にナノマシンを感染させ、それによってある目的のために動かされているようである。
どんな目的?
それを探るために、サイバー空間に隠棲している天才科学者の力を借りて、別の対話型人工知性ナノマシンを導入し、すでに入っているナノマシンを押さえ込もうとする。
人体の中での複数の意図。
主人公の彼は、宇宙物理の数学者。死に絶え超新星と化そうとしているある恒星を使って、途方もない実験をしようとしていたらしい。
恒星の中には、すでに研究用のポッドが仕込まれ、恒星の死は意図的に早められていた。
そこにからむ陰謀。
そして、恒星の生命。
なにぶんにも、主人公が記憶喪失で、記憶が混乱し、肉体が混乱しているのである。
ストーリーもいささか混乱気味になろうというものだ。
そこに、恒星の生命が登場したり、恒星の生命と意志を予言する宗教哲学が登場したりと、話はややこしくなる。
たぶん、書きたかったことは、人工知性ナノマシン、人類、恒星の知性と規模によって大きく異なる知性の相互理解やあり方の可能性なのだろう。
この時期のSFは、ハード的なストーリーに科学と関連するような新興宗教を織り交ぜることで作品に深みを出そうとするものが多い。
成功していると、哲学的になれてよいのだろうが。
ナノテク、ナノロボットのひとつの途方もない可能性や知性・生命の途方もない可能性について考えるのにはよい作品かも知れない。
(2006.7.26)
TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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