はるの魂 丸目はるのSF論評


夜の大海の中で
IN THE OCEAN OF NIGHT

グレゴリイ・ベンフォード
1977


 グレゴリイ・ベンフォードという作家は、ひとりの主人公の年代記的な宇宙作品が好きである。それと宇宙の異種との遭遇をモチーフとした宇宙のSF。本書もまた、1999年にはじまり、2019年にかけて、宇宙飛行士で科学者のナイジェル・ウォームズリーの物語である。
 1999年、小惑星イカルスが軌道を変え、地球に衝突するコースをとった。これに対処するために、ナイジェルらが核爆弾を積んでコースを変えるためにイカルスに飛ぶ。ところが、ナイジェルは、中空のイカルスが廃棄された異星の宇宙船であることを発見した。地上からの指示に背いて、ぎりぎりまで中を調査し、はじめて地球以外の文明に触れたのであった。
 それから、15年後、2014年。ジェット推進研究所に職を得たナイジェルは、木星から火星、金星へと軌道を移す太陽系外の飛行物体スナークを確認した。それは、人工知性を持ったコンピュータで、人類文明と交信を果たした。ナイジェルは、ふたたび機会を得て、この飛行物体に接近、場合によっては破壊する司令を出されていたが、それを果たすことなく、飛行物体は去ってしまう。
 そして、月で新たに古い破損した宇宙船が発見され、その調査がはじめられた。そこにもまた、ナイジェルの姿があった。

 地球は、戦争と環境汚染、経済的混乱により荒廃し、キリスト教系の新興宗教が力を得ていく。そして、その新興宗教は、ナイジェルが体験した宇宙の異種との出会いに触発され、科学分野、政治分野にも力を入れ、ついには、宇宙開発に対しても大きな影響力を見せる。
 にがにがしく思いながらも、科学の開かれた民主的な可能性を信じるナイジェルであった。

 宇宙は、機械知性に満ちていた。そして、機械知性を生みだした有機体知性は、宇宙の中ではまれな存在で、機械知性によって滅ぼされていた。
 はたして、人類と地球の運命は? その複雑な未来を予感させて、物語が繰り広げられる。

 一度読んでいるのだからあたりまえなのだが、既読観の高い作品である。
 天然の小惑星だと思っていたものが実は異星の高度な文明種属による宇宙船であった。
 機械知性と有機知性の戦争。
 ひとりの宇宙飛行士科学者の信念。
 新興宗教の台頭と地球および人類社会の疲弊。
 モチーフは、繰り返される。
 だから、安心して読めるのかも知れない。

 続編「星々の海をこえて」は未読。同じシリーズに属する「大いなる天上の河」「荒れ狂う深淵」「輝く永遠への航海」は読んでいるのだが、「光の潮流」はおそらく未読。どうもグレゴリイ・ベンフォードの作品は、タイトルが似ていて、シリーズとして出されているわけではないので、きちんと買って、通して読んでいない。
 なんとか入手して読んでみたい。

(2006.7.29)





TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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