はるの魂 丸目はるのSF論評
カズムシティ
CHASM CITY
アレステア・レナルズ
2001
「啓示空間」(2000)と同じ宇宙史に属するレナルズの作品である。「啓示空間」に負けず劣らず、本書「カズムシティ」も1200ページ近い大作というか長大作品。どうしてこう長くなってしまうのかは分からないが、解説などを読むと、イギリスの出版事情が絡んでいるとか。ハリー・ポッターシリーズの影響だろうか??
舞台は、スカイズエッジ星とイエローストーン星。カズムシティはイエローストーンの都市である。入植時以来の戦争に明け暮れるスカイズエッジ星で、武器密輸を行う黒幕とその妻が殺される。ボディーガードをしていた元兵士で天才スナイパーのタナー・ミラベルは、自分のプライドをかけて復讐を誓い、ボスと妻を殺したアルゼント・レイビッチを追った。
そして舞台は変わり、イエローストーン星へ。人類の一派であるウルトラ属の近光速船に乗り冷凍睡眠でイエローストーン星軌道上のハビタットで目覚めたタナー・ミラベルは、記憶に混乱をきたし、スカイ・オスマンの夢に悩まされていた。
スカイ・オスマンは、スカイズエッジ星に入植したときの英雄であり、犯罪者として追われた者の名である。彼は、今やスカイズエッジ星の一部の新興宗教で殉教者としてあがめられ、スカイ・オスマンウイルスが作られて、ばらまかれた。感染した者は、磔刑された彼と同じように右手から血を流し、スカイ・オスマンの夢を見せられる。タナー・ミラベルは、どこかで感染してしまったらしい。そして、イエローストーン星に来たのは、もちろん、逃げたレイビッチを追いかけるためである。イエローストーン星には、レイビッチの家系が力を成しているという。しかし、タナー・ミラベルには自身があった。数日以内にはしとめると。スカイ・オスマンの生涯を追いかける変わった夢に悩まされながらも、タナー・ミラベルはレイビッチを追い求める。
そして、イエローストーン星。融合疫という、ナノマシンを含むコンピュータ類と鉱物、生物を巻き込んで変形していくおそらくは過去の異星人によると思われる疫病が、栄華を誇るイエローストーン星を襲っていた。何もかも変形し、機能を失った土地で、人々は、自らの身体の中のナノマシンと、移植物を捨て、古い蒸気機関などを「再発見」し、かつての高度な科学技術の遺物と融合させながら、富める者は富めるままに、貧しい者は貧しいままに生きていた。
物語は、イエローストーン星でのタナー・ミラベルの物語と、タナー・ミラベルが見るスカイ・オスマンがたどる生涯の物語のふたつがもつれ合いながら進む。
そう書くと、なんだかとても文学的な感じもするが、そうではない。
特殊効果が最初から最後まで盛りだくさんのハリウッド映画かフルCGアニメといった感じの作品である。
変形するビルの部屋には、融合疫で飲み込まれた人々が生えている。
長命化、不死化した人々は、人生に飽きて、マンハンティングを行い、姿形を自由に変えていく。シマウマのように黒と白の模様をつけ、自らを「ゼブラ」と名乗る現在は女性の人間。豚に人の遺伝子を加えているうちに知性を獲得してしまった豚人間。身体中を機械化した人間。ナノテクとバイオテクノロジーの技術の究極は、どんな魔法も、ファンタジー世界も、または、天国や地獄も実現可能にしてしまった。そして、その崩壊も。
とにかくアクションと異質な光景に満ちた21世紀最初のSF作品のひとつである。
楽しめ。
それにしても日本だったら、○○文庫や○○新書のような形で、1時間もあれば読める作品になっているだろうに。そうして、売れたらシリーズ化して、50話くらいのアニメ化して、実写映画化して、キャラクターにして儲けるだろうに。何もかも1冊に突っ込んで、これでもか、これでもか、と、読ませ続けるあたりが、イギリスなのだろうか。
気軽に読むような娯楽作品なのに、この長さと厚さはなに??
本書「カズムシティ」と「啓示空間」は、同じ宇宙史で時期的にも重なっているところはあるが、内容には重なるところがないので、独立して読める。「啓示空間」のように、移動中の近光速船、ふたつの惑星の物語が入り組んでいるのと違って、ふたつの物語が時系列でそれぞれ語られるので、「カズムシティ」の方がはるかに読みやすい。内容としても、「カズムシティ」の方がアクション、ビジュアル的であり、最初に読むなら、「啓示空間」よりもとっつきやすいだろう。
英国SF協会賞受賞作品
(2006.08.12)
TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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