はるの魂 丸目はるのSF論評
スキズマトリックス
SCHISMATRIX
ブルース・スターリング
1985
格好いい名前のSF作家投票だったら名前で1票入れたくなるような「ブルース・スターリング」の長編第一作である。
月を回る環月軌道上のコロニー「晴れの海環月企業共和国」から物語はじまる。小惑星帯、土星のリング帯などの宇宙都市世界の力が強くなり、その大きくふたつの勢力マシンテクノロジーによって進化を遂げようとする「機械主義者」とバイオテクノロジー技術によって進化を遂げようとする「生体工作者」の勢力である。古い環月コロニーでも、彼らの影響を受け、人々と社会は変遷していく。
共和国の貴族の子息であったリンジーと、平民のコンスタンティンは工作者の元で教育と生体的な強化を受け、潜在的な外交官として育っていた。しかし、彼らの思想や行動は、共和国にとっては害悪であり、リンジーは静かの海環月人民財閥に追われ、そこで新たな工作者に出会い、そして、海賊船のフォルツナ鉱夫民主国へ、さらに次へと変革を起こしながら流れていく。そうして、異星人交易船との出会いと人類の大きな変化の中で、リンジーは、いくつかの流れを形作っていく。人類は変わり続ける。それは、もはや人類と言えないのかも知れない。いくつかの流れとはコミュニケーションすらとれないだろう。むしろ異星人との方がコミュニケーションがとれるのかもしれない。
それほどまでに変わりゆく人類の末裔たち。
リンジーの長い人生という旅を通じて、人類と太陽系の変革の過程をたどる。
1985年である。サイバーパンクである。ウイリアム・ギブスンと並び称されたブルース・スターリングの作品である。いやあ、はでだねえ。それにしても、詰め込んである。まるで歴史の概要を読んでいるような錯覚に陥る。リンジーの人生で何人かのキーとなる人との出会いと別れと再会があるのだが、そこに感情的に移入はできない。そこでの感情移入を作者が排除しているのだ。それとも、翻訳の問題か?
世界は、ガンダムである。
つまりは、重力から脱した人たちが新たな思想や意識を持ち、その思想や意識に従いながら生きていく。しかし、その思想や意識、行動規範には時の状況によってはやりすたりがあり、永遠に続くようなものではない。万物は流転するのだ。
このあたりは、ガンダム世界と良く似ている。
本書は、長い歴史を描いているので、ガンダムよりももっともっと複雑で変化が激しいのだが、時期的には1970年代末から80年代にかけて、こういう人類を超えた、今の人類には理解できない思想、行動といったものを描く動きがあったのだ。
その大きなエンジンとなったのが、サンバーパンクムーブメントであったのだろう。
ところで、個人的にはすっかり忘れていた話で、新鮮な気持ちで読めたのはよかったが、訳がしっくりしないのか、原文が読みにくいのか、どうにもつまりつまりとなって、思ったよりも読むのに時間がかかってしまった。
一度同じ世界空間を把握してから読み直すとよりおもしろく読めるのかも知れない。
ということで、さっそく同じ世界の短編集「蠅の女王」を読むことにする。
(2006.08.17)
TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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