はるの魂 丸目はるのSF論評


エニグマ
ENIGMA

マイクル・P・キューピー=マクダウエル
1986


 謎解きのSFといえば、すぐに思い出されるのが「星を継ぐもの」(J・P・ホーガン)にはじまるシリーズ作品である。作品ごとに、新たな謎が生まれ、仮説がひっくりがえったりする。こういう謎解きSFの場合、それが単独作品ならば、最後のネタをばらさずに感想や評論やもろもろを書くことは容易だが、シリーズ物となっている場合、2作目以降、どうするか考えさせられる。
 本書もまた、前作「アースライズ」に続く三部作の二作目にあたり、当然ながら第一作目である「アースライズ」のネタは割れた状態で物語がはじまる。本書「エニグマ」の解説にあたった大野万紀氏は、「アースライズ」へのネタ晴らしになるということを警告し、できれば先に「アースライズ」を読むことを勧め、その上で、独立しても読める作品であることを伝え、そして、「アースライズ」のネタを解説の中ではばらさないという離れ業をなされている。さすが、プロである。  誠に申し訳ないが、「アースライズ」を未読の方は、大野氏の例にならい、同じように判断をしていただくしかない。  一、「アースライズ」を読んでいないので、ここから先を読まない。
 二、「アースライズ」を読んでいないが、入手困難だし、「エニグマ」も読むかどうか分からないから、「アースライズ」のネタ晴らしは気にせずに読む。

 ということで、私は、「アースライズ」のネタバレを前提に以下を書きたいと思う。しかし、「エニグマ」のネタバレはしないでおく。だから、「エニグマ」だけを読もうという方はご安心を。



 以下、「アースライズ」のネタバレが含まれます。ご容赦ください。























































 宇宙技術を再び手に入れ、人類社会のおおよその統一を果たした地球は、ファーストコンタクト後、世界評議会が地球上の政府となって豊かで安定的な保守社会を構築していた。人口は90億人となり、太陽系の各地から届けられるエネルギーと資源によって経済も産業も、人々の生活も満たされていたのである。一方、ファーストコンタクトに向けて世界政府的機構(コンソーシアム)によって作られた宇宙機関は、統一宇宙機構となり、地球の外側での力を増していた。統一宇宙機構は、地球への貿易とともに、惑星探査に力を入れていた。
 今、ひとりの若者が世界評議会官僚の卵としてエリートコースにのった大学生活を送っていた。彼の名は、メリット・ザッカリー。しかし、彼が運命のいたずらで太陽系クルーズに乗り、木星を間近に見たことで、彼の人生は180度転換した。エリートコースをはずれ、宇宙技術系の大学に移籍し、宇宙を目指しはじめたのである。何かにとりつかれたかのように。
 時に、おおよそ西暦で2200年前後、ファーストコンタクトから地球上で160年が過ぎようとしていた。
 ファーストコンタクトの結果、人類は宇宙の探査にとりかかった。いくつかの拠点を設け、そこを経由して、調査船が人類が抱え込んだ謎を解くために、時間と空間を超える旅を続けていた。時間を超えてしまうのは、クレイズ…超光速航行技術のせいである。光速の壁による時空の制約はなくなったが、一度のクレイズでも、座標となる地球や拠点との時間軸は大きくなり、ウラシマ効果を生んでしまうからである。
 人類が抱え込んだ謎、それは、宇宙には人類と出自を同じくする人類の植民地やその廃墟がいくつか残されており、そのどれもが基本的な宇宙航行技術を失っており、地球よりも退行していることである。そして、おそらくは地球が彼らの出自であることは間違いないものの、地球そのものに、かつて宇宙航行技術を持った人類がいたとは確認されていないことである。いくつかの仮説が立てられ、それを証明するための証拠を求めていたのだ。
 若きメリット・ザッカリーは、この謎に立ち向かうべく、まずは、言語学者兼資源地質学者として調査船コンタクト・チームの一員となる。いくつかの異星の人類に出会い、遺跡を調査しながら、彼は成長し、そして、謎への仮説を新たにしていく。
 長期にわたる宇宙船内の人間関係と時間の経過による人類社会の変化、そして、謎そのものが本書「エニグマ」の魅力である。
 結論については、うーん…とうなってしまうところもあるが、あたかも宇宙が人類中心であるような設定でありながら、それを感じさせない物語に仕立てているところが本書のおもしろさであろう。
 以前書いたかも知れないが、地球がひとつというのは人類にとっても、その生命・生態系システムにとってもとても危ういことである。人類の不始末で、生命・生態系システムそのものが消滅することは今のところ考えられないが、大きな傷を負わすことぐらいはできる力を持ち、実際に結構な変化を与えている。早いところ、まずは、惑星軌道コロニーなりをつくり、居住可能な惑星を見つけるか、火星のような見込みのある星をテラフォーミングして、地球の有機的再生産に入らなければ、人類という種に、長期的なリスクが募るばかりである。科学技術を最優先する気持ちはないが、人類という種の視点で考えれば、地球が人類にとって持続的に再生産できる場であるよう努力する必要があると同時に、人類という種にとってのリスク分散を果たすために人類が宇宙に出て自立的に生活できる空間を持つことは望ましい。それは、同時に、地球という生命・生態系システムを増殖させることにつながる。わざわざガイア仮説を持ち出すこともなく、生命とはそういうものである。
 さて、本書「エニグマ」では、いつ、どこの誰の手によって、どのようにして、そして、なぜ、人類種が他の惑星に植民地をいくつも持つにいたったのか? という問いと、なぜ、その植民地と地球の人類は、長い間、この事実と、宇宙航行技術を失ってしまったのか? というふたつの謎が試される。
 メリット・ザッカリーとともに、この謎を楽しみたい。
 そして、一緒に、結末について「えーっ」と叫ぼう。(いや、良い意味で)


(2006.10.14)



TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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