はるの魂 丸目はるのSF論評
2001年宇宙の旅
2001: A SPACE ODYSSEY
アーサー・C・クラーク
1968
「決定版2001年宇宙の旅」とある1993年に新訳された「2001」である。本書「2001年宇宙の旅」については、映画「2001年宇宙の旅」との関係について整理しておく必要がある。映画「2001」はスタンリー・キューブリック監督による作品である。この映画「2001」は、キューブリックが宇宙SFを企画し、クラークのいくつかの短編を軸に作品を考えていた。そこで、クラークにキューブリックから脚本のオファーがあり、脚本を書く前に、クラークが、映画の原作になりうる長編小説を書き、それをもとに脚本を作成するという段取りになった。クラークがアメリカでキューブリックと議論をしながら、映画用、小説用にアイディアを出し合い、それを積み上げて、本書「2001年宇宙の旅」が書かれ、平行して映画「2001年宇宙の旅」が制作された。この制作の過程で、キューブリックとクラークの関係は悪化し、後日様々な発言があり、また、周囲もそれぞれの立場で映画と小説について意見を述べている。
ただ、誰もが認めるのは、映画「2001年宇宙の旅」は、映画史上に残る名作であり、SF映画の中では最高傑作のひとつであるということだ。それは、2001年を通過してしまった現在でも変わることはない。小説「2001年宇宙の旅」もまた、SF史上に残る傑作のひとつであり、欠かすことのできない作品である。この映画と小説は、キューブリックとクラークというふたりの天才的クリエイターが共同作業をすることによってはじめて生み出されたのである。
映画も小説も、人類が月に降り立つ以前に発表され、そして、SF小説、特撮、SF映画、文化、科学、宇宙開発に対して大きな影響を与えた作品である。
さて、キューブリックが死に、クラークは21世紀の今もいまだ生きている。クラークは、生きているものの強みとして、「2001」について様々なことを書き、「2010」「2061」「3001」をしたためた。その点で、クラークの勝利である。生きているものは何でも言えるのだ。
小説としての「2001年宇宙の旅」は、とてもわかりやすい作品である。
20世紀末、月の裏側で異常な磁気を観測、その地点を掘ってみたら、黒いモノリスが出てきた。調査によれば300万年前に埋められたものらしい。モノリスは、太陽の光を浴び、太陽系全体をゆるがす信号を発信した。それは、土星方向に向かっていた。数年後、初の太陽系探査船ディスカバリー号が本来の目的であった木星から予定を変更して土星に向けて旅立つ。起きている乗員はふたり。そして、人工知能HAL9000。冷凍睡眠しているのは3人。無事スイングバイによって木星を通過したところで、HAL9000は乗務員に告げる。「お祝いの邪魔をして申し訳ないが、問題が起こった」。そして、事件が起こる。
なぜ、HAL9000は狂ったのか? ボーマンは、土星の衛星上にあった巨大なモノリスを通してどこに行き、どうやってスターチャイルドになったのか? スターチャイルドは地球に帰ってきて、何をしようとしたのか? そして、モノリスを設置し、ボーマンをスターチャイルドにした宇宙種属の目的は何か? 彼らはどこにいったのか? そういったことに一定の答えが書かれている。
映画を見て、それから、本書を読むとよい。ひとつの解釈として、整理されるはずだ。そして、映画を見ていなくても、本書を読むとよい。どちらも独立した作品であるからだ。
ただ、間違えてはいけない。本書は映画のノベライズではない。また、純粋なクラークの作品でもない。
やはり、本書はクラークの色の濃い、クラークとキューブリックの作品であり、映画は、キューブリックの色の濃い、キューブリックとクラークの作品なのである。
どちらも尊重し、楽しんでほしい。
映画しか見ていないのならば、ぜひ、本書を読んでほしい。いつまでも絶版することはないだろうから。
それにしても、クラークじいさんはすごい。ハインライン、アジモフ、クラークと三大巨頭といわれたSF界の去勢の中で、最後まで生き残り、巨頭中の巨頭として、今もSF界に君臨しているのである。
(2006.11.12)
TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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