はるの魂 丸目はるのSF論評


黄金の幻影都市
OTHERLAND vol.1 CITY OF GOLDEN SHADOW

タッド・ウィリアムズ
1996


 いやあ、長い。長いよ。アザーランドシリーズの第一弾「黄金の幻影都市」は、ハヤカワSF文庫から2001年に5冊立て続けに出されたのだが、これで1冊の内容だという約350ページが5冊だから、ざっと1700ページ。5年ぶりに読み返してみたが、やはり長い。時々疲れながらも、しっかりといくつかのストーリーを追いかけてみた。
 話は、ちょっとした未来。それほど遠いわけではない。生活もそれほど今とは変わっていない。戦争があったり、大変動があったりしたが、それでも金持ちは金持ちだし、貧乏人は貧乏のままだ。
 そこそこ学と金のあるものは、情報のアクセス力を持ち、生活を向上させることができる。どちらかひとつが欠けるものは、生活を変えることもままならない。
 物語は、5つの小枝を交互に飛び移りながら、少しずつ世界をかいまみせる。
 5つの小枝。

 第一次世界大戦の兵士として悪夢の中にいるポール・ジョーナスは、やがてジャックと豆の木のような世界へと誘われる。失った記憶の中で、次々に変わる世界。ポールを追う者がいて、ポールは逃げなければならない。なぜかは知らぬが。

 レニー・スラウェヨは、カレッジの教員として3次元のネットワーク・プログラムを教えている。電脳仮想空間に移入して、その世界での行動やシステム設計を行うのだ。!Xザップは彼女の最も新しい学生で、サン族、ブッシュマンのひとりである。レニーには、働かない父と、電脳ゲームや軽いハッキングにあけくれる弟がいて、彼女が働くことで彼らはなんとか人並みの生活をしていた。しかし、弟が、電脳空間にいる間に植物人間となってしまう。ネットと切り離しても意識が還ってこなかったのである。本来あり得ない事故に、レニーは深い陰謀の影をみつけ、!Xザップとともに、弟を救うための調査をはじめ、そして、事件に巻き込まれていく。

 軍の住居区で暮らすクリスタベルは、好奇心と想像力豊かな少女。大きな事故で部屋から動けないのに訪問を禁じられているミスタ・セラーズのもとを訪ねるのが密やかな彼女の冒険となっている。ミスタ・セラーズにはなにか大きな秘密があるのだ。そして、大人達は、彼を恐れているらしい。

“恐怖”と自らを名乗る変質者は、隠された電脳空間では、オリシスの神にアヌビスとして仕えさせられている。いつかは神の座を狙いながら、も、神の力の大きさの前に、電脳空間でも現実でも、彼は“恐怖”に怒り、恐怖をまき散らす。

 オーランドとフレデリックは、電脳空間で知り合った友人同士。おたがいの住所も、年齢も、家族背景も知らない。しかし、現実以上に彼らは友情を結んでいた。オーランドの化身たる伝説のサルゴーは剣士として、フレデリックの化身たるピスリットは盗賊として、ゲーム界に尊敬され、君臨していた。しかし、サルゴーは、ありえないできごとで殺されてしまう。オーランドは、フレデリックとともに、電脳空間で起きている「何か」を探し始める。まるで、それが生きる証につながるかのように。

 「黄金の幻影都市」では、この5つの物語が流れながら、やがてひとつの大きな物語に結びつこうとする。
 レニーやオーランドが見た黄金の都市の立体映像は真実なのか?
 あるとすればどこにあるのか?
 現実と区別のつかないような電脳空間は存在可能なのか?
 もし、存在するとして、それは、何のため、誰のためのものなのか?

 5つの物語それぞれに、魅力あふれる登場人物が出て、ていねいに書き込まれている。それゆえに長いのだが。
 そして、5冊目を読み終わったところで、叫ぶしかない。
「続きは?」

 あんまりだ。第一部は、第一部に過ぎないのか。
 そりゃあ、そこまででもRPGのように遊ばせてもらったけれど、1700ページを読んできて、そこで終わるの?
 1〜5冊の間に、たくさんの伏線がはられ、そのいくつかが現れ、そして大きな伏線を作っておいて、第一部のご購読ありがとうございました。引き続き第二部をお楽しみください。ですか。
 いや、第二部以降、翻訳されているのなら、こんな風には書きませぬ。
 それから5年。放置しっぱなしですか。
 売れなかったのかなあ。
 おもしろいのか、おもしろくないのかさえ、まだ言えない…。
 長い。いろんな意味で。


ちなみに、第一部「黄金の幻影都市」の各巻の副題
1 電脳世界の罠
2 赤き王の夢
3 青い犬の導師
4 闇の中の宇宙
5 仮想都市テミルン

(2006.12.6)




TEXT:丸目はる
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