はるの魂 丸目はるのSF論評


宇宙創世記ロボットの旅
CYBERIADA

スタニスワフ・レム
1967


 本書「宇宙創世記ロボットの旅」は「今はむかし、宇宙にはまださしたる乱れもなく、星はみな、満点に整然とならんで」いたころ、全能の資格を持った宙道士クラバウチュスとトルルが宇宙を旅して世界の諸問題を解決する物語である。「今はむかし」といっても、現世の我々人間にとっては遠い未来。すでに有機体の生命はなく、機械知性が進化の後に宇宙に満ちている時代のことである。
 機械知性=ロボットの星々、国々にもさまざまな王がおり、さまざまな問題を抱えている。戦いにあけくれる王、敵国の皇女に恋をした王子、かくれんぼに凝ってしまった王に、強力な獲物を狩ることばかりを追求する王、存在が高度に数学的な竜に悩む国もあれば、革命で星を追われた王もいる。この難題に取り組み、あれよあれよと解決するのがこのふたりの全能なるところである。
 1976年にハヤカワSF文庫となった短編集。
 私がもっとも好きなのは、「番外の旅」のひとつ「コンサルタント・トルルの腕前」である。平和に暮らしていた鋼眼機族のもとに機械獣がいすわってしまう。どんな兵器でも追い払うことができない機械獣を倒すのにトルルが所望したものは「紙とインク、スタンプ、丸い印章、封蝋、クリップと画鋲は入り用なだけ、受け皿とスプーン−−というのは、お茶はもうもってきていただきましたからね−−それから郵便配達人、それだけです」ときたもんだ。
 このロボットたちのおとぎ話から、社会批判などを読み取るのもよい。あまりに人間くさい機械たちを楽しむのもよい。とにかく、おもしろいことだけは請け合える。
 スタニスワフ・レムは、難しい作品ばかりを書いているわけではない、軽いタッチのコミカルな作品も数多くある。しかも、しっかりSFしている。
 古いからと忘れ去るにはもったいない作品である。
 ぜひ。


(2007.1.26)



TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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