はるの魂 丸目はるのSF論評


反逆者の月
MUTINEER'S MOON

デイヴィッド・ウェーバー
1991


 いまだ未読ではあるのだが、「紅の勇者・オナー・ハリントン」シリーズの作者デイヴィッド・ウェーバーによる単独処女長編が本書「反逆者の月」である。オナー・ハリントンシリーズの方が有名でたくさん執筆されている。たしかに、ハヤカワの背表紙には見覚えがある。読んでいないのは、なんとなく、であるのと、シリーズものに手を出すのにちょっと躊躇したからでもある。女性作家によるミリタリーSFであるマイルズ・ヴォルコシガンシリーズには違和感がないのだが、男性作家によるミリタリーSF、しかもシリーズものということで、食わず嫌いでいた。
 その作者の作品が新訳されたのだが、3作ということと、「月が実は巨大な宇宙船だった」という設定に惹かれてついつい買ってしまった。というか、実は同時期にハヤカワから出たジョン・スコルジーの「老人と宇宙」を買おうと思っていて、間違えちゃったんだが。
 とにかく、食わず嫌いを直すには、突然食べてみるのがよい。

 時代は2040年頃、舞台は月、そして地球。主人公はNASAのエース・パイロットであるコリン・マッキンタイア少佐。月での単独調査飛行を行っているときに、未確認飛行物体との接近遭遇を体験。そして、彼は月が実は巨大な宇宙船であることを知らされ、大いなる使命を与えられた。
 この銀河には、強大な帝国があり、地球の月はその帝国軍の主力戦闘調査宇宙戦艦が偽装したものであったのだ。5万年前に起きた乗員の反乱によって、宇宙戦艦は地球軌道上から動くことができなくなっていた。しかし、宇宙戦艦は死んだわけではなく、その能力を保っていたのだ。帝国の真の敵は、銀河系の生命を定期的に殺戮するために訪れるアチュルタニと呼ばれる伝説の存在である。アチュルタニがどんな存在で、どのような兵器をもって銀河の生命体を滅ぼすのかは帝国にも分かっていない。しかし、帝国や銀河の生命体は幾度も壊滅の危機を迎えていた。
 そして、今、再びアチュルタニがこの銀河系に侵入したらしい。
 地球も数年後にはアチュルタニの侵略を受けるであろう。
 しかし、いまだ地球はいくつかの勢力に分かれて争いを続け、テロは終わることを知らない。
 この銀河的危機の前に、コリン・マッキンタイアの活躍がはじまる!

 おっとお、これはペリー・ローダン少佐じゃないのか?
 ドイツの連作スペースオペラ「ペリー・ローダン」シリーズは、アメリカ宇宙軍のペリー・ローダン少佐ら4人が月への初有人ロケットに搭乗し、月にたどり着く寸前に未知の攻撃を受けて不時着。地球の敵国からの攻撃と思われたが、実は人類より遙かに進んだ宇宙種属の不時着した宇宙船からの攻撃であった。ペリー・ローダンは、彼らと接触し、その高い技術力が、核戦争の危機にある地球に大きな影響をもたらすことに気づく。そして、地球の統一と宇宙時代の幕開けによる人類の発展に向けて単独の戦いをはじめるのである。

 似てる。構図が似てる。
 しかし、「反逆者の月」とペリーローダンが似ているのはここまでだろう。
 なんといっても、月が宇宙戦艦なのである。
 しかも、人類の成り立ちにも大きな秘密が!
 人類の歴史にも!
 やあやあ、なんとなく、SFというよりもUFOもののエセ科学ストーリーや、「人類は宇宙人がつくった」とか、「人類の歴史の陰には宇宙人の策謀が」みたいなストーリーを思わせる展開だが、それをSFとして読ませ、ミリタリーSFファンを喜ばせる筆力が、デイヴィッド・ウェーバーにはある。
 やりたい放題であるが、月が宇宙戦艦だって言われたら、あとのことはなんとなく納得させられるからしょうがない。大きなホラの前には、小さな違和感が違和感にならないのだ。だから本書「反逆者の月」はおもしろい。
 さて、ところで、あと2作あるらしいが、どうなるだろう。
 楽しみだなあ。

 っと、ペリー・ローダンも読まなきゃ。

(2007.04.09)




TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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