はるの魂 丸目はるのSF論評


焦熱期
FIRE TIME

ポール・アンダースン
1974


 遠い未来、地球人類は他の惑星に移住していた。異星種属ナクサ星人が入植しているムンドマル星では、地球人がナクサ星人入植地以外に入植することで棲み分けしていたが、やがて地球人とムンドマル星のナクサ人との間に戦争が起こり、それまで良好な交易関係を続けてきた地球とナクサ星はムンドマル星をはさんで戦争状態にあった。

 人類は好戦的であるばかりではない。
 アヌ、ベル、エアと3つの太陽によって複雑な軌道を描く惑星イシュタルでは、地球人は長きにわたってイシュタル人の異星文明調査を続け、地球人のコロニーを形成していた。
 イシュタル星は地球とよく似ており、おおむね人類が生存に適する星である。イシュタル人も人類によく似ており、違いは2腕4足のケンタウロス型であるということである。イシュタル人は、植物や昆虫と共生関係にあり、そのたてがみや体毛は植物からできている。その共生関係のせいか、イシュタル人は社会的に64歳で成人し、300〜500歳と長命である。それは、イシュタル星の特異な気候変動がもたらした独特の生態系に由来するのかも知れない。1000年に一度、3つのうちのひとつの太陽アヌがイシュタルに近づくのである。焦熱期が訪れ、干ばつと気候変動によって多くの個体が死に、イシュタル人の文明が崩壊する。それゆえにイシュタルでは科学文明が長期に発展してこなかったのかも知れない。そして、今、新たな焦熱期が近づきつつあり、本来無益な争いを避けるイシュタル人たちの生き残りをかけた闘争がはじまっていた。
 イシュタルの人類は、統括領と呼ばれるイシュタルでもっとも文明的な地域と人々とその文明を守ろうと手を貸すことを決意していた。そこに、地球の宇宙軍がナクサ星との戦争の一拠点としてイシュタル星に基地を建設するとやってきて、イシュタルの地球人の資材を徴発してしまった。  地球人とイシュタルの人類、統括領のイシュタル人と統括領を落とそうとする蛮族の戦い、そして、宇宙規模の戦い…。
 そんななかで描き出される人間・イシュタル人の物語…。
 そして、もうひとつ、イシュタル星に潜んでいた古代文明の跡…。
 ポール・アンダースンがハル・クレメントへのオマージュとして描いた異世界の生態系の物語である。

 ポール・アンダースンは、本格的なSFも書けば、ファンタジー、ファンタジーを背景に置いたSFもうまく書ける器用な作家である。
 1000年に1度、焦熱期が来て生態系と文明が大きな変動を迎える星…。
 1度夜を迎える惑星のお話であるアイザック・アシモフの「夜来る」(1941)を彷彿とさせる設定。
 作者が書いているようにハル・クレメントの「重力の使命」(1954)を彷彿とさせる、魅力あるイシュタル人。
 ファンタジーでおなじみの半人半馬型のイシュタル人が、「三国志」ばりの陸戦、海戦を繰り広げ、さらには、イシュタル人の独特の共生体とエコロジーに加え、古代異星文明、宇宙戦争、戦争と平和、さらには愛と性まで加わってもうなにがなにやらの詰め込みようである。
 脂がのっているとも言えるし、もったいないとも言える。
 これだけの内容を1冊に詰め込みながらも、読みにくくないようにストーリー立てはシンプルであり、読みづらいことはない。
 登場してくるガジェットが少々古くさいが、1974年の作品であり翻訳も1983年ということでそのあたりは頭の中で現代風に翻訳して読めばよい。それ以外は、今でも楽しく読める作品である。
 絶版なのがちょっと残念。


(2007.05.09)



TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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