はるの魂 丸目はるのSF論評
サンドキングズ
SANDKINGS
ジョージ・R・R・マーティン
1981
ジョージ・R・R・マーティンの短編集「サンドキングズ」である。私がマーティンの作品に出会ったのは、彼が編者兼作者を務める「ワイルド・カード」シリーズである。いわゆるアメリカンコミックヒーローもののSFであり、ミュータント化した人類のうち、一部が特殊能力をもったヒーローとなり、特殊能力を持った敵や一般の人類との関係、確執、戦いを行うストーリーである。ストーリー上、差別的な表現も入ってくるためなのか、途中で翻訳出版されなくなっている。最近では「タフの方舟」シリーズや、ファンタジー「七王国の玉座」シリーズなどが翻訳され、ちょっとしたブームになっている。そこで、新装版として1984年にハヤカワSF文庫から出されていた本書「サンドキングズ」が再版されたというわけであろう。私は、1984年時点のものは購入していないため、今回はじめて読んだ。
本書「サンドキングズ」の作品の多くは、舞台の雰囲気がどことなく「タフの方舟」に似たような世界。
表題作「サンドキングズ」の舞台は未来のとある惑星。異星人との交流も進み、人類も宇宙に進出して各地に散っているらしい。主人公のサイモン・クレスは独り者の大地主。趣味は変わった生物をペットとして飼い、それを友人達にみせびらかすこと。ハゲタカ、ヨロヨロ、地球産ピラニアを飼っていたが、ちょっとした遠出の仕事が長引き、ペットが死んでしまった。そこで、彼は新しいペットを探しに宇宙港付近の市場に行く。そこで、変わった虫を紹介される。サンドキングズ。アリのような社会性異星生命体で大きな同じガラスケージに入れておくと、群れと群れが戦争をはじめるという、凶暴な性質を持っている。しかも、わずかな精神感応力があるらしく、支配者=飼い主を神ととらえて巣に飼い主の似姿を彫刻するというのだ。
いくつかの「絶対に守って欲しい」という約束を了解し、サイモン・クレスは4組のサンドキングズを自分の家に据え付けた。そして、ある程度育ててから、友人達に見せびらかし、十分にうらやましがらせることができた。
しかし、彼は「約束」の重要性が分かっていなかったのだ。
という、まあ、SFホラーチックな作品であり、お約束なストーリーであるのだが、お約束なだけに、どのように物語を展開するのかでおもしろさがぐっと違ってくる。
ヒューゴー賞・ネビュラ賞をとっている作品だけに、この「サンドキングズ」はおもしろい。つぼを心得ていて、短編ながらサンドキングズという社会性のある異星生命体をうまく描いている。いや、説明しきるのではなく、ちょっとずつその姿をかいまみせるあたりが、SFホラー映画そのままである。「エイリアン」とかね。
オチもぴしっとお約束通りに決まっていて、すっと腑に落ちる。私は本来ホラー系の作品は大嫌いであり、ホラー映画は、どんなにSF設定がしっかりしていてもあまりみたいとは思わない。まして、日本のSFホラー小説や映画の多くは、途中からSFであることを忘れて最初の設定を無視したり台無しにしたりすることがあり、小説などは半分以上読んだところでうんざりした気持ちになることがある。そこで放り出すわけにもいかず、作品とおつきあいするのだが、最後の方には「金返せ」という気持ちになり、作品に入り込むことができない。それなのに売れたりするから腹が立つ。人ごとだけど。
それに比べて、本書「サンドキングズ」の引き締まっていることよ。
こういう作品こそ、お金を払う価値があろうというものだ。
もちろん、ただのエンターテイメントだけどね。
ヒューゴー賞・ネビュラ賞受賞作品
(2007.05.31)
TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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