はるの魂 丸目はるのSF論評


グローリー・シーズン
GLORY SEASON

デイヴィッド・ブリン
1993



 惑星ストラトス。公転周期約3年。地球をはじめ人類の母集団がいるヒューマン・ファイラムから見つかりにくい星域で、科学者であり哲学者であるライソスらが創設した人類社会である。濃い大気と高い二酸化炭素濃度を難なく呼吸し、真水が少ないため少々の海水でも飲める代謝を持つよう調整された植民者たち。しかし、それら適応のための調整以上に大きな変革がストラトス人にはもたらされていた。
 きわめて男性が少ない社会。女性が自然に単為生殖で生まれる社会。
 しくみはこうだ。
 約3年の長い公転周期の冬が来て、特殊な霜が降りるとそれをきっかけに女性達は発情し、男性を求めるようになる。このとき、男性は発情期ではないが女性の様々な接触や社会的圧力などで応じることができる。女性は男性の精子によって胎盤形成が誘引され、単為生殖、すなわち自らのクローンを産むようになる。一方、夏には決まってオーロラが出て、それをきっかけに男性達が発情する。このとき女性が妊娠するとそれは変異子となり、男女の遺伝子を引き継いだ男性または女性が生まれる。
 すなわち、男性にとっては、夏の子が重要であり、女性にとっては、個としては冬の子(クローン)が重要で、夏の子(男女)も利用価値はある。
 同時に、男性は基本的に闘争能力を削がれ、争いや戦いは女性のものという社会が構築された。
 力のある女性の氏族とはたくさんのクローン氏族であり、歴史を重ねたクローン氏族として家系が続き、反映することをこの世界でのひとつの到達目標となっていた。夏生まれの女性にとっては、5歳(地球年で15、16歳)になれば、育てのクローン氏族(母方)を離れ、独り立ちをすることになる。なぜならば、夏の子は、その氏族の真の子どもではないからだ。自らの知恵と才覚に頼って生きていき、運にも恵まれれば、彼女らは新たな氏族の最初のひとりとなることができるかもしれない。
 きわめてめずらしい双子の夏の子、マイアとライアは、5歳となって厳格な母氏族から離れ、仕事を求めて船に乗り込んだ。

 世間では、「夏の子が増えている」「ヒューマン・ファイラムから異星人(人類だが)が来ているらしい」「海賊の動きがおかしい」「夏でもないのに男が女に色目を使う」「男なしでも維持できる社会を目指す者たちの動きが広がっている」「母なるライソス主義を疑う人が増えている」など様々な噂が流れ、変革の予感が広がっていた。
 しかし、夢と野望に満ちたマイアとライアの耳には入らない。彼女らには彼女らの計画があるのだ。「自分たちふたりを母とする氏族をつくること」である。双子として、黙っていれば夏の子(変異子)ではなくクローン氏族に間違えられるかも知れないという特性を生かして世間を渡ろうと考えていた。
 しかし、そんなマイアとライアを引き裂く事件が起き、マイアは想像もつかない陰謀と事件に巻き込まれ、幾度もとらえられ、傷を負い、裏切られ、成長していくのだった。

 ブリンは、わざわざ本書の最後に「あとがき」を残し、この女性中心社会や田園回帰社会を書いた動機について説明(または弁明)している。なるほど読みようによっては、眉をひそめることになるのかもしれない。「あとがき」を読んだから、その結果としてブリンに対して眉をひそめてしまったが、こんなこと書かなければいいのに。70年代のル=グィンならば、フェニミズムに対する作品の位置づけを書かざるを得なかったろうが、反感が生まれようと多様な主張を許すようになっていて、なおかつSFという社会実験作品であるのだから、そこにわざわざ動機はいらないだろう。
 まあ、あとがきの感想を書いていてもしょうがないので、ここまでにしておこう。

 さてさて、本作「グローリー・シーズン」の話に戻ろう。
 最初に説明したようなことを、そういう「説明」ではなくストーリーの中で読み解かせていくのだから、自然に長くなる。それでも前半に飽きずに読ませるあたり、ブリンの作家としての本領が発揮される。大人になりかけた少女マイアを主人公にして、ちょっとひどいぐらいの冒険につぐ冒険を用意し、謎解きあり、少し異質だが恋心ありで、ぐいぐいと読ませてくれた。とりわけ、ヒューマン・ファイラムの男性レナとの出会いと、心理の変化はなかなかに楽しい展開である。
 最後まで、どたばたと冒険や謎解きを用意し、同時に世界の図式や歴史も読み解くことができ、パターンではあるが楽しい作品であった。
 ただ、最後の方に行くに従って、「あとがき」でわざわざ別立てしてある「ブリンの主張」が、本文にも同じように書いてある。それで少し興が醒めてしまった。しかも、「主張」が増えるにつれ、ストーリーがまだるっこしくなる。
 どうにもブリンらしいのだが、ちょっと教条的すぎないか?
 ま、とにかく、そういうことはよくあることで、気にしないっと。
 物語の舞台設定とストーリー展開はおもしろいのだから。



(2007.06.20)



TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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