はるの魂 丸目はるのSF論評


遠き神々の炎
A FIRE UPON THE DEEP

ヴァーナー・ヴィンジ
1992



 遠い遠い未来、遠い遠い銀河系のはずれ。人類は銀河外縁の宇宙に進出し、他の宇宙航行種属などと接触、光速に制約されない移動と通信を手にして、「超越」種属入りをめざしていた。「超越」それは、情報の処理と収集の極度な高度化によって、物質的にも情報的にも高位の存在になること。各宇宙種属にとってそれは究極の進化である。
 人類の進出エリアのもっとも果て、超越した神仙のエリアに接する際涯圏のはずれで人類は宇宙規模のパンドラの箱を開けてしまった。封印されていた存在が人類の隔離処置をものともせずに復活し、開放した人類を飲み込み、そして、宇宙に災厄をもたらそうとした。
 しかし、封印されていた災厄の中には、そのワクチンとも言える存在も含まれていた。その存在は、人類に警告し、そして、脱出をはかった。冷凍睡眠の子ども達と科学者一家族が、その存在を連れて際涯圏のもっとも底、光速に制約されるぎりぎりのエリアにあるある未知の生存可能惑星に降り立った。そこは、宇宙文明との接触経験がない知的生命体が支配する惑星であった。集合することで個体同士が同期しながら情報を交換し集団が1個の個性として知性を発揮する集合知性生物の住む惑星で、生き残ったふたりの子どもたちと、ロケットに隠された存在。
 災厄の進展の中で、ひとりの人類の女性と、移動マシンとともに知性を獲得した植物体のスクロードライダー種属の夫婦、そして、超越体によって生み出された人類の男の4人が、このふたりの子どもを救い、災厄を止める方法を求めに出た。
 世界は、宇宙的なインターネット上のメーリングリストで情報を交換し、彼らの動きを追う。
 中世世界のような集合知性生物の星に降り立った文明世界の子どもたちは、その世界の権力争いに飲み込まれていく。そして、冒険がはじまる。
 宇宙的な災厄は、文明世界の人類の女性を、思いがけない高度な宇宙知性との戦いに飲み込まれていく。そして、冒険がはじまる。
 宇宙規模のバーチャルではないバーチャルリアリティ的な作品である。
 なにもかもが詰め込まれていると言ってもいい。
 ファンタジーも、サイバーパンクも、スチームパンクも、スペースオペラも、サバイバルも、パニックも。  デイヴィッド・ブリンの「知性化シリーズ」とも似たところがあるが、物語のまとまりと風呂敷の大きさでは、本書「遠き神々の炎」に軍配を上げたい。

 こういうおもしろい作品については書くことはあまりない。
 希望を言えば、映画ではなく、50回シリーズのテレビドラマかアニメで見たい。そういう映像化が可能な要素に満ちている。ヴィジュアルな作品なのだ。
 うん、読もう。もう一度、10年後ぐらいに。


ヒューゴー賞受賞作品


(2007.06.30)



TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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