はるの魂 丸目はるのSF論評


竜と竪琴師
THE MASTERHARPER OF PERN

アン・マキャフリイ
1998



 1968年に「竜の戦士」が長編作品として上梓されてから30年、パーンに降り注ぐ糸胞とと戦う竜と竜騎士の物語は、正編、外伝と紡がれる中でファンタジーの域を越え、パーンに人類が植民した歴史、糸胞による壊滅的被害、竜の創造、イルカ類との共生と隔絶など、惑星パーンをめぐるSF歴史物語へと変わっていった。
 そのなかで、竪琴師ノ長ロビントンの役割は巻を追うごとに高くなり、ロビントンが、パーンの新時代を築いていくなかで果たした役割の大きさには目を見張るものがある。
 さて、本書「竜と竪琴師」は、そのロビントンの物語である。彼は、どのように生まれ、育ち、竪琴師ノ長となったのか? いつから彼の音楽と言葉の才能は、そして、人を調停する才能を得ていたのか、その半生が語られる。
 アン・マキャフリイは、女性作家として、若く、少々元気すぎる少女の成長を描くことが多い。竜騎士のシリーズでも、何人かのアン・マキャフリイらしい少女の主人公が登場する。ところが、本書の主人公は、30年近く「賢者」として描き続けてきたロビントンの少年時代である。少年なのに、このロビントン君は老成している。おいおいそんな理想的な天才少年はいないだろう、という感じである。
 そして、ロビントンの母のメレランもしかりである。息子を顧みない父と、父に愛されていないことを知る息子との間で、息子を守り、夫を愛そうとするメレランの気丈でけなげなこと。前半はロビントンの物語というよりも、メレランによる「ロビントン子育て日記」のような状態で、いかにもマキャフリイらしい展開である。
 後半から終盤に行くに従って、なにやら懐かしい面々が若い姿で登場する。
 そうだよなあ、ロビントンが竪琴師ノ長になるということは、シリーズ第一作「竜の戦士」に直結するということなんだ。
 なるほど、そういう歴史があったんだ!
 ということで、本書「竜と竪琴師」はロビントンの成長物語であるとともに、シリーズ第一作「竜の戦士」の時代状況をより明らかにする直接の前史となっている。それでは、まず、この「竜と竪琴師」を読めばいいのかと言えば、そうでもない。
 パーンは竜の惑星なのだ。竜が火を噴き、その竜に竜騎士が乗る。希望と喜びを抱いて、パーンを守るために戦う竜騎士と竜の物語なのだ。まずは、「竜の戦士」を読んで欲しい。


(2007.08.20)



TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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