はるの魂 丸目はるのSF論評


白い竜
THE HOUSE DRAGON

アン・マキャフリイ
1978



 パーンの竜騎士シリーズの初期3部作のトリを飾るのが本書「白い竜」である。惑星パーンには色とりどりの竜がいる。しかし、白い竜はただ1匹しかいない。しかも、この白い竜と感合した竜騎士は、ルアサ城砦の若い太守ジャクソムであった。竜騎士は竜とともに大巌洞に暮らし、竜騎士としての訓練を受けなければならない。それが掟であった。そして、城砦は太守を抱かなければならない。太守のいない城砦は別の城砦の太守が子息らを送り込むことになる。前作で困った立場になった少年ジャクソムは、周囲の画策の末に、太守のまま竜を自らの城砦に迎えてともに育つことが許された。それは白い竜が長く生きながらえないと思われていたからである。また、太守ジャクソムの後見人として元竜騎士で竜を死によって失い、その後、ギルド織物ノ長まで努めたリトルがいたことも要因のひとつであった。さらに、ジャクソムは、もっとも名誉あるベンデン大巌洞の洞母レサが指名したルアサ城砦の正当な跡継ぎでもあったからである。レサは、本来は唯一の正当なルアサ城砦の後継者であったが、竜騎士になる条件として誕生したばかりのジャクソムに太守を譲ることを求めたのである。
 さまざまな重荷と力関係の中で育たなければならないジャクソムと白い竜ルース。周囲の思惑をよそに、白い竜ルースは小柄ながらも立派に成長し、ジャクソムもまた若き太守として立派な青年になりつつあった。もちろん、ジャクソムにとっても竜ルースにとっても、竜騎士として惑星パーンを襲う糸胞との戦いを望んでいたが、太守としての役目がそれを阻んでいた。青年特有のはやる気持ちと自尊心がジャクソムを突き動かしていた。
 そこに、大事件が起こる。ベンデン大巌洞の洞母レサの女王竜が産んだ女王竜の卵が何者かに盗まれたのだ。
 中世的世界からの脱却を目指しつつあった世界は、想像もできない犯罪が行われたことに震撼し、その動きを止めた。
 そんななか、青年ジャクソムは白い竜ルースとともに活躍し、そして、成長していくのであった。

 青年成長物語であるとともに、いよいよ惑星パーンの竜騎士、領主、ギルドという中世的社会体制と科学技術の停滞が壊れようとしはじめる。世界は変わり始める。そのことに深い不安を持つもの、伝統が壊れるからと怒りを持つものがいる。また、その変革に期待し、未来を見据えて動き始めるものもいる。白い竜を持ち、太守となったジャクソムは、その変革期を象徴する存在である。だから、うとまれる。だから、きつく扱われる。彼だってひとりの若者であり、悩める青年に過ぎないのだが、人々はそれを許さない。人々は、それぞれの視点でジャクソムを見る。あるものは友人として、あるものは育てなければならない愚かな若者として、あるものは伝統破壊を象徴する敵として、あるものは子として、あるものは自分では果たせなかった思いを果たすものとして…、大変な重荷の中で、それなりに成長するジャクソム君。なかなか、作者の愛が込められていてよい。

 それに、なるほど、1巻から2巻、2巻から3巻と竪琴師ノ長ロビントンの存在が大きくなることがわかってくる。これはその後の巻の楽しみである。


(2007.09.20)



TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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