はるの魂 丸目はるのSF論評
略奪都市の黄金
PREDATOR'S GOLD
フィリップ・リーヴ
2003
「移動都市」シリーズ続編である。人類が核とウイルスによる短時間の戦争によって壊滅した後1000年後、一部の人々は、自らの地に根付き、多くの人々は都市ごと移動を開始した。巨大な都市が荒廃した地球上を疾走し、その上で人は生まれ、育ち、そして死んでいく。移動都市は資源とエネルギーを求めて他の移動都市を狩り、食っていた。
移動都市ロンドンに生まれ育ったトムは、荒野で育ったへスターと出会い、今やふたりは飛行船に乗って交易商として暮らしていた。顔に傷をもつへスターの心配は、いつかトムを失うこと。今はふたりきりだからトムはへスターを愛してくれているが、もし、もっと楽しいこと、美しい娘が出てくれば、トムは船を捨て、別の移動都市で暮らそうとするに違いない。何よりトムは移動都市育ちだから…。
そんな不安通りに、トムとへスターは新たなトラブルに巻き込まれ、移動都市アンカレジに降り立つこととなった。移動都市アンカレジは、疫病で多くの人員を失い、今や幽霊都市のようなありさま。そこを指揮するのは若き美少女の辺境伯フレイア。略奪都市に追われ、不毛の地アメリカ大陸に最後の望みをつないで大氷原に針路をとったフレイアにとって、空から降ってわいたような若きトムはかっこうの恋愛対象であった。トムも、歴史ある移動都市に降り立ったことで、郷愁を覚えていき、しだいにフレイアと過ごす時間も長くなっていく。へスターにとっての悪夢であった。そこでへスターは一計を案じるが、それが世界の変革につながっていくとは当のへスターも思いもよらぬことであったろう。へスターにとってはトムを取り戻したい一心だったのだから。
人生とは、世界とはそういうものである。
本書「略奪都市の黄金」は、前作「移動都市」から2年後、主人公も同じトムとへスターである。「めでたし、めでたし」から2年。心優しきトムのせいなのか、へスターとの関係はすこぶる良好というところからはじまる。まさしく、ジュブナイルの王道である。
移動都市ロンドンとは違って、人数の少ない移動都市アンカレジでは、人間関係もシンプル。トム、へスター、フレイアの奇妙な三角関係に、さらに、謎の幽霊の淡い恋も加わっての四角関係が加わって移動都市アンカレジはてんやわんや。
もちろん、前作同様本書「略奪都市の黄金」では、世界の秘密が少しずつ明らかになっていく。移動都市と反移動都市同盟の関係に加え、反移動都市同盟内の争い、失われた技術や失われたアメリカ大陸に潜む秘密など、設定のおもしろさが物語をもり立てる。
骨肉の争いに満ちた世界を逃れ、移動都市アンカレジがたどり着くのは、詐欺師のような作家が書いた荒唐無稽な空想の世界なのか、水も緑もない不毛の大地なのか、それとも、1000年の時を経て復活した緑あふれる新たな土地なのか? トムとへスターはどこにいくのか。「移動都市」という圧倒的な新機軸で展開される本シリーズ、続編の翻訳が楽しみである。
(2008.01.05)
TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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