はるの魂 丸目はるのSF論評
時の果ての世界
THE WORLD AT THE END OF TIME
フレデリック・ポール
1990
人類は光速を超えることはなかった。そして、太陽系の惑星をテラフォームすることもなかったらしい。しかし、反物質を扱うことと、冷凍睡眠法を確立することはできた。そして太陽に似た恒星や惑星系に探査機を送り出し、地球と近い生命が存在し、かつ知的生命の兆候が見られない惑星を発見した。激しい議論の上に、3隻の恒星間宇宙船が建造され、その惑星に人々を送り出した。惑星は、ニューマンホームと名付けられ。1隻目はニューアーク(新しい箱船)と名付けられた。そして、6年後にニュー・メイフラワーが出発し、船内時間で100年近くが過ぎようとしていた。
主人公のヴィクターは地球生まれ。12歳の誕生日に、ニューマンホームの近くで冷凍睡眠から目覚めさせられる予定であった。しかし、その予定より30年ほど前に減速する宇宙船で目覚めさせられる。家族ごとまとめて冷凍されていたためで、彼に用事があったわけではない。彼の父は第5航宙士であるとともに天文学者であったからだ。目的とする星系に近い太陽が閃光星に変わったためである。減速のための光子帆にも影響があり、コース修正が必要であった。さらに、その閃光星は地球の天文学や物理学では説明のつかない恒星の爆発であったのだ。その特異な現象を調べるため、ヴィクターの父が目覚めさせられたというわけである。
やがて、その現象の変化が見られなくなり、ヴィクターはふたたび冷凍睡眠に入る。次に目覚めるのは、惑星ニューマンホーム。すでに先行した入植者が待つ土地である。彼らは大人も子どもも働き、働き、そして子どもは学校にも行かされた。すべてがそろっている惑星地球から、エネルギーと空気と水はあってもすべてを生み出すために働かなければならない開拓者の立場になったのである。やがて、他の恒星の異常現象は忘れられ、次に来るはずの恒星間宇宙船から定期的に届く連絡だけが希望となっていた。
しかし、そうはならなかった。
理由は不明だが、ふたたび近隣の恒星に異常現象が起こり、その後、彼らが存在するいくつかの恒星系が既存宇宙に対して加速しながら移動をはじめたのである。もはや人類の科学では理解不可能な現象が起きた。
さらに、ニューマンホームの太陽が突然減衰しはじめた。それはつまり、ニューマンホームの寒冷化を意味した。すでに成人し、何人もの子をなしたヴィクターは、その理由をさぐるために数人の仲間とともに同時期に異常が発生した内惑星をめざす。そこで突然の攻撃を受け、ヴィクターは命からがら自ら生きるための妻とともに冷凍睡眠に入る他はなかった。次に目覚めさせられたとき、すべてはあまりにも変化していた。そして、さらに…。
ひとつの物語は、ヴィクターの物語であり、人類には理解不可能な宇宙的現象に翻弄させられる人間たちの物語である。既存宇宙に対し加速しながら光速に近いほどの速度で移動するとは、既存宇宙にとって見たら彼らは存在しなくなり、未来に旅するのと同じことである。ニューマンホームを含む恒星系は、ある時期に減速し、やがて既存宇宙に帰ってくることになった。しかし、それは未来の、時の果ての世界であった。宇宙と時の果てには何があったのか。
もうひとつの物語は、人類とは異質の知的生命体の物語である。彼の名は、ワン・ツ。住まいは太陽。存在は神に等しい。光速などという低速なものに依存せず、太陽のエネルギーを存分に活かして重力子やタキオンをあやつり、遊び、考え、仲間を増やし、殺し、存在するエネルギー生命体である。
ワン・ツは生き残りたかった。何者かが自分を殺そうとしている。人類であれば猜疑心と言っていいような状態におそわれ、自らが生み出した仲間を殺していく。それとともに彼らが住む太陽も破壊していく。
そう、ニューマンホームで翻弄された人類が知るよしもなかったが、すべてはワン・ツの起こしたできごとであったのだ。
本書「時の果ての世界」は、古老フレデリック・ポールがニューポールと称されるようになった80年代以降の作品である。
先日、2008年3月19日に、アーサー・C・クラークが90歳で亡くなったため、SF界のビッグ3はついに亡くなってしまった。フレデリック・ポールはビッグ3ほどの名声を得ていないが、まだ存命のようである。アジモフよりも年上で、クラークの2つ下である。本書「時の果ての世界」はまだ亡くなってはいないものの、すでに作品は発表されておらず、作家としては晩年の作にあたる。
ニューポールの作品は、古典的なコンセプトを新しい知見と書きぶりで読ませる作品として知られている。本書「時の果ての世界」も単純なコンセプトである。人類の新惑星への移住と開拓。光速に近い加速を続けることで読者に示される時の果て、宇宙の果ての世界。非物質的な存在で太陽の中に生きる宇宙規模の生命の存在である。冷凍睡眠によって、いくつもの時代を生きることになる主人公の目を通して、読者は「冷たい方程式」と、その中で生きる人々の変遷を知ることになる。さすがニューポール。しかも、宇宙物理学の基礎をいろいろと教えてくれる。さすがニューポール。勉強になります。
しかし、70歳の時の作品である。書くだけで偉い、すごい!
70歳の作品だと思って読むと感慨深い。
死と生命、永遠について思いを馳せているんだなあ。
そして、未来を見ているんだなあ。
ちょっと感動。
(2008.3.30)
TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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