はるの魂 丸目はるのSF論評


分解された男
THE DEMOLISHED MAN

アルフレッド・べスター
1953



 「虎よ! 虎よ!」と並んで名作とされ、栄えある第1回ヒューゴー賞受賞作品ともなった「分解された男」が再版された。1965年に初版が登場し、2008年の再版は28版となる。当時は活字だったのだろうが、それをそのままオフセット用の原稿として使ってある。だから、本をさわって活字のでこぼこは感じられないが、字面は活字のしっとりとした風情がある。とてもいい。
 舞台は西暦2301年2月15日にはじまる。人類は、地球、金星、火星と、月および木星と土星と海王星の衛星に版図を広げていた。
 エスパー、いわゆる超能力者が少しずつ増え、彼らが人類の中で一定の役割を担っていた。その最大の能力は、他人の思考が読めると読心術である。超感覚第一級ともなれば、深層意識まで読むことができるため、相手の思考が相手の意識に上る前に把握することさえできる。そのため、事業における犯罪や、まして、殺人などの異常心理はすぐに探知され、大きな犯罪を起こすことはとても難しくなっている。
 今、ここに、日々悪夢にうなされながら、殺人を計画するひとりの男がいた。
 その男は、ベン・ライク。世界でも名だたる大企業「モナーク物産」の社長である。
 そして、彼が殺そうと願っているのはただひとり。唯一の敵であり、今やモナーク物産を超えた存在になったド・コートニーカルテルの社長であるクレイ・ド・コートニー老だ。
 超能力者にとりかこまれた中で計画された完全犯罪。
 犯罪は実行され、世界は騒然となった。
 その凶悪殺人事件を担当するのが、超一流の超能力者で刑事部長のリンカン・パウエル。
 超能力分野、ミステリ仕立てのSFの分野で一世を風靡したベスターの「分解された男」は、今も語り継がれる名作である。

 よ。

 読んでませんでした。

 実はべスターは、中短編集の「ピー・アイ・マン」しか読んでいなかったのだ。

 本書「分解された男」は、すでに半世紀以上前に書かれた作品であり、そこに出てくる内容には古さを感じさせるところもある。また、文体や翻訳文体も今のはやりとは違って、古い感じを受ける。しかし、ストーリーは現在にも通じる「王道」である。
 事業上の敵を狙った殺人事件。完全犯罪の計画。計画外の出来事。事件を大きな権力を持った犯人と警察の「知恵比べ」…。そして、犯人の心に潜む陰と、明らかにされる真の動機。
 いいなあ。ほっとするなあ。
 古典はきちんと読んでおかなけりゃ。



(2008.04.10) )




TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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